19.エースとキャプテン
新藤とキャプテンの快進撃はまだ終わらなかった。
二週間後に行われた南地区大会の5000mで、新藤は2位、キャプテンは4位に入った。
二人は4位までが選ばれる全国総体(インターハイ)に出場する事になった。
同じ高校から二人も全国大会に出場する。しかも一人は入学したばかりの一年生だ。大快挙だ。
空港には二人の到着を待つ人達で溢れ返った。『全国大会出場おめでとう!』の横断幕も用意されていた。新聞カメラマンもいた。二人が肩を組んだ写真が朝刊に載った。
「これは応援に行かないといけないなあ」
新聞を読む父が僕に聞こえるように言ってきた。
僕は父を見た。父が咳払いをして、わざとらしく僕に流し目をしてから言った。
「観に行くか?」
父が神様に見えた。
そうして、父とのインターハイ応援ツアーが決まった。二人のインターハイ出場が決まってから、父が駅伝部に首を突っ込むようになった。
皆で全国大会に出場する二人を応援しよう。
父の呼びかけがきっかけとなって父母会が発足された。
たまに父母会の人は練習を覗きに来た。差し入れを届けてくれて、ついでに練習を見て写真を撮ったりする。
その写真は駅伝部のSNSに投稿される。このSNSも父が始めた。
撮った写真は必ず父に送られて、父の手によって発信される。
覗く人は多かった。コメントには新藤への応援が多かった。それもそうだ。新藤は将来を期待されるランナーだ。注目度は高い。
そんな事は知ってか知らずか、毎晩、父は楽しそうにパソコンを操作している。練習場が家から近いのもあって、父はよく顔を出してきた。
「お、今日もお前の父ちゃんいるよ」
隣で走る賢人が言った。父は盛男さんと何やら話している。調子に乗ると周りが見えなくなるから心配だった。
二人が新聞に載ってから練習を見に来る人達が見えた。
特に制服姿の女子が多かった。皆がスマホを構えていた。その女子達の見つめる先には必ず新藤がいた。
「いいよなあ。速い人は・・・」
隣の賢人が言った。新藤を見つめるその眼差しは、羨望以外の何ものでもない。僕も新藤には羨望の眼差しを送る事がよくある。僕は賢人と違う理由だけど。
新藤のジョグ姿はとても絵になる。視線を落として息を整える様はオーラがあった。その姿に見惚れては、あんな雰囲気を出せるようになりたい、と僕はいつも思っている。
スマホを構えた女子達の近くを新藤が通る。新藤が通り過ぎていくと、女子達が控えめにキャーキャー騒ぎ始めた。
そこへ遅れてキャプテンが通る。新藤みたいに視線を落としてジョグをしている。でも、視線がチラチラと何度も女子達に行ったり来たりして落ち着かない。
キャプテンが立ち止まってその場で屈伸を始めた。腰を捻ったり、脚を上げたり、とわざとらしくその場に留まっている。
そんなキャプテンに女子達は背中を向けている。スマホの画面を見せ合ってキャーキャー騒いでいた。
「やっぱり速いだけじゃ駄目か・・・」
賢人の悲しい声が、赤い夕暮れの空に染み渡っていった。
つづき
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https://note.com/takigawasei/n/n768053596ae3