33.しみじみになる人
冬休みに入った。
家に帰ると、向かいのサトウキビ畑が目についた。一面が褐色になったサトウキビ畑を見ると、なんか落ち着いた。
やっとこの島にも冬が近づいてきたんだなとしみじみ思う。
冬休みに入ってすぐの日曜日、全国高校駅伝大会のテレビ中継を観た。
いつもならワクワクして、ハラハラして、余韻に浸って終わるのに、今回は観る前から気分が重くてしょうがなかった。後ろめたくて胸の中がどんよりだった。
一区がスタートする。
中間地点の記録を見て思う。
新藤なら先頭にいるんだろうなと。
一区の一位が中継所に飛び込んで思う。
新藤だったら一位になれたかもしれないと。
そして二区の目まぐるしい順位変動を見て思う。自分が出てたらどうなってたんだろうと。
試しに新藤が一位と同じ記録で来た事にして、それから自分の3㎞の自己記録をテレビの記録の時計と合わせてみた。
まだ自分の記録に到達していない。でも既に第二中継所は賑わっていた。続々と選手がタスキを繋いでいく。
ここで僕はやっと肩からタスキを外す。
そしてまだ遠い中継所に向かって最後のスパートをかける・・・・・。
寒気がした。僕が出ていたらとんでもない事になっていた。もしかしたら史上最高の無様な姿を、テレビに曝け出していたかもしれない。
県代表が三区にタスキを渡した所で、テレビを消してベッドに横になった。
無力感しかない。自分が今までやっていた事が本当に無駄だったような気がする。
正樹の顔が浮かんできた。
その正樹が言ってくる。
「お前らは恥さらしになる為に、毎日、毎日、無意味な努力で汗を流して、無駄な時間を送ってるんだよ」
うん。まさにその通りだ。君は正しいよ。
僕はしみじみ思った。
つづき
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https://note.com/takigawasei/n/n277bb5b06769