21.変化
夏休みが終わって二学期に突入した。
相変わらず暑い。蝉の声が少なくなって、暗くなるのが少しだけ早くなったぐらいだ。
また忙しい日常に戻った。練習スケジュールは一学期と同じサイクルになった。
練習内容は最初の頃と比べるとレベルアップしている。ビルドアップ走の距離、インターバル走の本数は増えていく。それで設定時間とか休憩時間はどんどん短縮されていく。
まだ練習についていけないのに、練習はどんどん先を行った。置いていかれながらも諦める事だけはしないようにと励んでいるけど、正直、凌いでいる感は拭えない。
それでも、自分の能力にはかなりの変化があった。
自分で言うのも何だけど、一番伸びているのは自分だと自信を持って言えた。
スピード練習では省吾の前で走るし、走り込みの時なんて賢人の背中を見失わずに走り切る日もある。
初日の1万m走を思い返したら、もう進化と言っていいぐらいの成長だ。
あの時は皆に周回遅れした。今ではそれが懐かしかった。
あんな遠くにあった皆の背中が日に日に近づいている事は練習でも感じるし、絶対に一生追いつけないだろうな、と思っていた亮先輩や大志先輩でさえ、ひょっとしたら、なんて思う時もある。
新藤とキャプテンの背中はまだまだ見えていないけど、この調子ならいつかはきっと見える。
まだ水平線の向こうの蜃気楼のような遠さかもしれない。
でも、あの時の自分と今の自分を比べたらできる気がした。
そんな自信を持てるようになった事が一番に変わった事かもしれない。
これも、部活以外での自分のしている事が成果に繋がっているからだ。
あんなに苦痛に思っていたストレッチも今では習慣になった。
お風呂から上がったらすぐストレッチ。
それがもう当たり前になっていた。やらないとそわそわした。お風呂から上がって、お皿洗いをお願いされるとムッとするほどだった。開脚はキャプテンぐらいには開くようになった。上半身も倒せてきたし、痛みはまだ感じるけど、このストレッチの気持ちよさも分かるようになった。
苦しかった筋トレはそつなくこなせるようになった。倒立は壁を使わなくても3秒ぐらいはできるようになった。今は倒立から歩く練習を始めている。すぐ倒れるけど、いつかは絶対にできるという自信があった。コツコツと諦めずに続けていけば必ず成果はある。それは今までやってきた事だから分かる。
諦めずに続けてきたお陰で筋肉も確実に付いてきた。
中学の時と比べると、僕の身体は別人のように変わっていた。鏡で自分の姿を見るのも多くなった。
練習の後、さりげなく服を脱ぐと盛男さんは僕の身体の変化に気づいてくれた。そしてこう褒めてくれる。「いい感じで仕上がってきてるな」と。
盛男さんは順調に成長していく皆をミーティングでよく褒めてくれた。そして、よくこれを言う。
「これもお前達に協力してくれる人達のお陰だからな。感謝の気持ちを持って一生懸命練習するんだぞ」
その通りだった。
今では当たり前になっているけど、練習の時は父母会からドリンクやゼリーなどの差し入れが届く。さらに父母会は芝生広場の芝刈りや学習の森のコースの草むしりもしてくれた。父の作業着姿もよく見た。
本来なら使っている僕達がやらないといけない。でも盛男さんが言っても父母会の人達は聞かない。そんな暇があるなら練習しなさい、と言われる。
改めて振り返ると、僕達は色んな人に良くしてもらっている。
たくさんの人達の力を貰って今日も練習をする。
そう思うと練習に身が入った。
つづき
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