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デザイン活動の省察がもつ可能性の探索#1-ポートフォリオ制作会の実践

デザイン活動の省察(「省察」は「ふり返り」、「リフレクション」と言う場合もあります)がもつ可能性に関心があり、さまざまな実践と研究をしています。

デザイン活動の省察から「デザインの実践知」を見出す

デザイナーがデザインする対象が年々広がっているので、デザイナーといっても得意領域は人それぞれですが、デザイナーへの期待とそのデザイナーができることややりたいことにギャップが生まれてしまうことも少なからず起こっているのではないでしょうか。

例えば、「UXデザインできます!」と言っても、デプスインタビューなどUXリサーチを重視したアプローチから、チームがもっているビジョンをもとにコンセプトやアイデアを生み出し、プロトタイピングしながら作り込んでいくアプローチなど、デザインの進め方は実はデザイナーによってけっこう異なっていたりします。

組織内で期待値のギャップが起きてしまうと、せっかくもっているデザイナーのポテンシャルを活かしきれません。

そのデザイナーがどんなやり方でデザインに取り組むのか?考え方、思考の癖ともいえるデザイナーの実践知がわかって初めて、そのデザイナーの力を全面に活かした活動ができるのではないでしょうか。デザイナーがどんな実践知を持っているのかを見出すことが、デザイン活動における組織内外のコラボレーション促進につながるのではないかと考えています。

それでも、デザイナー自身で自分らしいデザインのアプローチが何なのか、明確に言語化できる人は少ないものです。そこで、デザイナーの自分らしさ、デザインの実践知を見出す活動をして、その方法論を研究していきたいと考えるようになりました。

これが、私のデザイン実践&研究の大きな問題意識、テーマです。デザイナーの実践知を見出すための方法として、デザイン活動の省察の方法をいろいろと実践しながら探究しています。

デザイン活動をふり返り、ポートフォリオを作る

今回は、私が所属するMIMIGURI社内で実施したポートフォリオ制作会を紹介しながら、デザイン活動をふり返ることの意味とその方法について考察してみたいと思います。

ポートフォリオ制作会とは?

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これまでに自分が関わった活動を振り返り、その経験から自分は何を得たのか、自分の取り組み方の特徴、自分らしさとは何なのかを探りながら、ポートフォリオにまとめていく取り組みを実施しました。

一般的にポートフォリオというと、制作したアウトプットを全面にアピールするものと思われることが多いですが、ここでは成果物視点ではなく、制作した作者自身の視点で活動を語ることによって、自分のデザイン体験を意味づける機会とすることを重視したポートフォリオ制作をしていきました。

ちなみに、ここでいう「デザイン活動」とは、いわゆる職種としてのデザイナーの活動に限定せず、MIMIGURIの業務で扱う組織やチーム、個人の創造性に関わる活動全般を含む広義のデザインと捉えています。

ポートフォリオ制作会のプロセス
今回のポートフォリオ制作会は、MIMIGURI社内で参加希望者を募って実施しました。任意参加形式です。最初は8人が参加し、約半年かけながら少しずつ進め、最終的に5人のポートフォリオができあがりました。

大まかな実施手順は下記の通りです。

手順 1:ポートフォリオにする題材を決め、共有し合う
 最初にふり返る題材にする自分の活動を1つ選びます。
手順 2:デザインしたものをふり返り、対話する
 活動の概要として「デザインしたものが何か」をふり返ることから始めます。
手順 3:デザインプロセスをふり返り、対話する
 活動全体のプロセスがどうだったか、デザインプロセスを可視化しながらふり返ります。
手順 4:特に印象的なできごとについて体験作文を書き、朗読し、対話する
 デザインプロセスの中で特に印象に残っているできごとをピックアップし、そのできごとについて詳細にふり返ります。このできごとの詳細なふり返りでは、自分がやったこと、そこで起きたこと、そのとき自分が考えていたことや感じていたことを文章に書く「体験作文」を活用しました。
手順 5:Designing Concept を探り、対話する
 ここまでふり返ってきた内容をもとに、デザイン活動における自分らしさのエッセンス、自分のデザインのやり方や考え方の特徴、自分の癖とも言えるもの(ここでは「Designing Concept」と呼んでいる)を探っていきます。
手順 6:各自、ポートフォリオ制作
 ポートフォリオを作り込みます。
手順 7:ポートフォリオ社内発表会
 各自が制作したポートフォリオのお披露目発表会を行いました。

※全てオンラインで実施。手順1〜5は1.5時間の対話の場を3,4週間おきに開催し、約半年かけてポートフォリオ発表会まで至った。

完成したポートフォリオはこんな感じです。(ノーコードでwebサイト制作ができるSTUDIOを使用することを基本としました)

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省察を深めるキーとなった「体験作文」

ポートフォリオ制作会の手順4で活動のプロセスを詳細にふり返るために「体験作文」を活用しました。

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体験作文とは、自分が経験したできごとについて、そのとき自分が考えていたこと、感じたことなどの内面を含め、一人称視点で詳細に記述した文章です。要は、小学校のときに書いていた作文を思い出しながら書くようなイメージです。特に暗黙知の多いデザイン行為において、その背景にあるデザイナーの思考をより深く表出させるために、体験作文が活用できるのではないかと考えました。

〈参考〉もともと、私が学部と大学院時代にお世話になっていた須永剛司先生が度々使っていたもので、より深く詳細にデザイン活動をふり返るために使えるのではないかと思って使ってみたものです。

ポートフォリオ制作会の中では、一人ひとりが体験作文を書いてきてそれを持ち寄り朗読し、対話しあいました。すると、デザイン活動の省察が一気に深まった感覚がありました。

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他者の体験作文を聞くと、相手の活動をなんとなく知っていた場合でも「そんなこと考えながらやってたのか!」というそれまで知らなかった内面の話が垣間見えてきます。そして体験作文で語られた内容について気になったことを対話していく中で、体験作文の語り手がデザイン活動をする上で大事にしている価値観につながるキーワードが出てきました。自分の体験作文を他者に聞いてもらう場合も、作文朗読後の対話の中から反対に自分ではわかっていない自分らしさにつながるキーワードが見えてきました。

私の体験作文を一部抜粋して掲載します。私はMIMIGURIで運営するCULTIBASEのメディア開発を題材にポートフォリオを制作していました。2020年の話なのでMIMIGURIになる前で、ミミクリデザインドングリのメンバーがちょうど一緒に活動し始めた頃の話です。

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(中略)

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(以下省略。このような感じで体験作文を書いていきました。)

この体験作文を通じたデザイン活動のふり返りをしたあと、「Designing Concept」をまとめていきました。ここでは、デザイン活動における自分らしさのエッセンス、自分のデザインのやり方や考え方の特徴、自分の癖とも言えるもののことを「Designing Concept」と言っています。

その後、最後に題材にしたデザイン活動をポートフォリオにまとめていきました。私が制作したポートフォリオは下の画像のような感じです。(完成度はまだまだプロトタイプくらいの気持ちです..)

↓トップページ

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↓デザインプロセス紹介ページ

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↓DesigningConcept紹介ページ

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体験作文の有用性を考察

今回MIMIGURI社内で実施したポートフォリオ制作会の事例をもとに、デザイン活動の省察における体験作文の有用性について考察をしました。

①デザインの実践知を表出させる手段としての有用性
ポートフォリオ制作会で体験作文を活用してわかったことの1つに、体験作文を書き、朗読し、対話すると「心象」が表出してくるということがありました。これは、デザイン活動のプロセスをふり返っていたときに出てきていた自分らしさにつながるキーワードが、体験作文を書くこと、そしてその後の対話を通して変化したことからわかったことでした。体験作文を書くことで、できごとの流れに沿ってより深く自分の内面と向き合うことになります。そして、体験作文の朗読を聞いた他者との対話から自分自身ではわからない自分らしさに対する示唆が得られます。

ここで体験作文に表現されることがらの特徴を整理してみます。体験作文は、自分にとって印象的なできごとについて「行為」と「心象」が一体となった一人称表現として記述しながら経験を省察するものといえるのではないかと考えています。

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企業の日常業務のコミュニケーションでは、「心象」は「行為」と分けられ、客観的事実としての「行為」のみ扱われる場合が多いのが現実です。業務中において、心象は「行為」の背景に隠され、表出される機会はなかなかありません。

また、デザインの省察をするにしても、プロセスを行為のみふり返っているだけでは十分に「心象」に触れられないため、本質的な実践知まではたどり着けないことが今回のポートフォリオ制作会の事例からもわかりました。

そして、デザイン行為に対する「心象」は、単純にデザイナーの思考や感情というだけでなく、デザイナーがデザインに取り組む際に大事にしている価値観に通じるものも含まれています。デザインに取り組む姿勢、すなわちデザイン態度といえるものや、さらに根本にあるデザイナーの哲学にも通じる要素が含まれていると言えます。今回のポートフォリオ制作の実践においても、体験作文を通じて、デザイナーの心象の深い部分にあるデザイン態度や哲学に触れていくことになりました。(デザイン態度とデザイン哲学の構造などの細部は今後深めていく予定です)

体験作文を活用しながらデザイン活動の省察をすることで、デザインの「行為」と「心象」を一体のものとして表現することが、デザインの実践知を表出させることにつながっていると考えられるのではないでしょうか。

②デザインの実践知を共有する手段としての有用性
今回のポートフォリオ制作会でわかったことして、体験作文の聞き手が、語り手の経験を臨場感を持って追体験しやすいということがありました。これは、体験作文が語り手の経験した出来事について、その行為、起きたこと、その時の思考・感情を順を追って具体的に丁寧に記述していくという特徴を持っていることが関わっています。

デザイン活動の中でどのような試行錯誤があったのか、体験作文の聞き手は、語り手の行為と心象を含む試行錯誤にリアルに触れることができると考えられます。そして、このリアルな試行錯誤に触れることで、実践知のエッセンスを見出す対話が生まれていくことがわかりました。

このように、体験作文は、行為と心象が混ざった現実の試行錯誤の中に見出される実践知のありようをリアルに表現している点で、 デザインの実践知を他者に共有する方法として有用であると考えられるのではないでしょうか。

ここで紹介した考察内容は、2021年6月末に開催された日本デザイン学会の春季研究発表大会でも発表しました。発表スライドは下記のものです。

組織内の暗黙知を表出・共有するために

MIMIGURI社内でポートフォリオの発表会を開催してから、ポートフォリオ制作に参加していなかったメンバーにも体験作文を応用して活用しようという動きが出始めています。運営したワークショップのできごと、クライアントとの打ち合わせのできごとなど日々の業務内のできごとについて体験作文を書き、共有するメンバーが出てきました。私は、こんなふうに社内で体験作文が活用されるようになるとは思ってもいなかったので意外でしたが、メンバーの実践知が日常的に社内で共有されていくのはすごくいいなと思っているので、今後も日常的にメンバーの実践知(特に暗黙知)を表出させ、共有していけるような取り組み、しくみづくりを実践していこうと思っています。

一方で、方法論の研究としては、ナレッジマネジメントの観点で体験作文がどのように活用できる可能性をもっているか、探究していきたいです。私もまだまだ試行錯誤しながら実践&研究しているところなので、実践知を表出させ、共有していく活動に興味がある方はぜひ意見交換しましょう!(既に取り組んでいる方もいればぜひ!)

〜後日談〜
このnote記事公開後に、MIMIGURIの竹内さんが早速体験作文を書いて、そのレポート記事を書かれていました!体験作文のさまざまな活用可能性を垣間見ることができます。まだまだ探究しがいがありそうです。


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