デザイナーの可能性を模索し続けてきた、ほぼ11年をふり返る〜第1章〜
今から11年前の2009年4月、私は社会人になり、デザイナーとして仕事を始めました。あっという間にデザイナーとして10年以上が経ち、ここにきて初めて転職したのと、ふり返りの研究をしていたりもするので、これまでの社会人生活の約11年間をふり返ってみようと思います。
ちなみに、2020年2月から所属しているミミクリデザインでメンバーインタビューをしていただき、こちらでもこれまで私がやってきたことにいくつか触れています。
こちらの内容と被る部分もありますが、インタビューで語らなかったことも裏話的に触れながらふり返っていこうと思います。思いのほか長くなってしまったので、全5章、5回の連載にします。連載の予定は以下参照。
第1章 デザインの現場を知る
第2章 UXデザインの広がりとともに
第3章 UXデザインの継続に向けて
第4章 デザイン研究へのチャレンジ
第5章 デザインの実践と研究を模索
※第2章以降の内容は気まぐれに変わる可能性がありますがご了承ください。
最初に一応、私がこれまでの社会人11年間でどんなことをやってきたのかをざっくり年表にまとめてみたものを貼っておきます。
ロールモデルとか、もはやない時代になってきているし、10年以上働いたIT業界のデザイナーもロールモデルがはっきりしてる領域ではないと思っています。そんな中でデザイナーとしての自分にできること、自分がやりたいことを模索しながら走り続けてきた約11年。自分が何をして、何を考えてきたのか、忘れないように印象的な出来事を中心にふり返っていきます。
初回は、デザインの現場を知るために社会人になり、少しずつやりたい仕事ができるようになっていったモヤモヤ期~チャレンジ期の話です。
デザインの現場を経験したい
私は多摩美術大学の情報デザイン学科情報デザインコースを卒業し、2009年4月にヤフーに新卒デザイナーとして入社しました。情報デザインの卒業生としては8期生です。当時、卒業生の先輩方はメーカーで製品のインタフェースのデザインをしている人たちが一定数いたので、就活では私もメーカー系をいくつか受けました。でも、全部最終選考で落ちてIT企業で妥協した感じでした。とはいえ、とりあえずデザインの現場を経験したかったので、正直どこの会社に行きたいとかこだわりはなかったです。今思えば、情報デザインを学んでIT企業へ就職する人たちが出始めた時期だったかなと思います。メーカーで製品のインタフェースデザインをしていた先輩方を情報デザイン第1世代とすれば、IT企業でWebサービスのデザインをしていった私たちは情報デザイン第2世代と言えるのかなと思ったりしています。(今は更に情報デザインの学びは幅広い分野で活用されるようになってきているので、もう第3、第4世代になってきているでしょうか。)
ヤフーに入った最初の頃、Webデザイン(特にコーデイング)はそれまで完全に独学だったので、新卒研修でWebデザインの基礎を身につけられたのはとてもよかったです。新卒の最初の頃は、Yahoo!きっずやYahoo!ボランティアなど社会貢献系のサービスの運用作業など、Web制作全般を主に担当していました。この頃にやった仕事で印象に残っているのは、Yahoo!きっずの今日は何の日のページのリニューアルでUI設計を担当したことでした。初めてUI設計を任せてもらえた開発案件でした。制約はありましたが、その制約の中で最大限ユーザーにとってより良い形を自分なりに考えてデザインできた感覚はありました。
UIがんばりつつも、モヤモヤ期
新卒2年目からは、広告代理店や広告主の方が使う広告管理ツールや社内ツールなど業務ツールのUI設計を担当することが多くなっていきました。業務ツールのUIデザインをするためには、当たり前ですが、まずその業務を理解しなければなりません。特に広告管理ツールは、インターネット広告の仕組みや広告運用の業務内容など専門用語を理解することから始まり、社内用語を覚えないとMTGにもついていけない..!という状況からのスタートだったので最初は苦労しました。この頃、社内でユーザビリティまわりに詳しい方からユーザビリティの検証手法を教えていただいたりしながら、ユーザビリティテスト、認知的ウォークスルーなど、作成したUIの検証をするようになりました。学部時代に感覚的にやってきたことが体系化されて理解できて、すっきりした感覚を覚えています。
とはいえ、学部時代に学んだようなアプローチ(自分たちで体験してみてどんなモノやサービスがよいか作りながら考えていくようなやり方)はまだまだできないな、、とモヤモヤしていた時期でした。でも任された仕事の範囲でできる最大限のアウトプットを出していくのは楽しかったし、考え抜く努力は惜しまなかったつもりでした。
そして、この頃から外部の勉強会に行くようになったと思います。すぐにそのまま業務で取り入れられなくても、UXデザインやサービスデザインがどんな状況でどう取り入れられるか試行錯誤していた日々でした。
体験を軸にしたサービス開発へのチャレンジ
新卒3、4年目には、業務ツール系のデザイナー主導の新規案件でデザインチームのリード役をやらせてもらいました。「サービスデザインをやろう!」「サービスブループリントを作ろう!」という先輩の提案もあり、2011年当時まだ日本語の資料がほとんどなく英語のサイトを見ながら見よう見まねでサービスブループリントをつくりながら、サービス設計をしていった思い出も。この案件で、立ち上げからリリース、定性&定量調査をもとにした改善まで、Webサービスづくりの一通りのプロセスに関われたという実感が持てました。
また、この頃は別で研究プロジェクトにも関わる機会がありました。母校の多摩美(須永剛司先生)とヤフーの共同研究で「コトづくりの方法論」がテーマでした。要は私が学部時代に学んできた自分たちの経験を作文すること(体験作文)や考えたアイデアを実際に使う環境で体験してみること(アクティングアウト)を通じて、コンセプトを見出し、プロダクトに落とし込んでいくアプローチ。これをWebサービス開発の現場へ適用するにはどうしたらよいかを検討していくプロジェクトでした。今思えば、こんなプロジェクトが自分が新卒3年目のタイミングで行われ、しかもプロジェクトメンバーに入れてもらえたのは本当に運がよかったと思います。私は学部時代に須永先生のゼミだったので、また3年越しに共同研究という形で学び直すことができました。そして、このアプローチでアプリ開発をするプロジェクトに関われたのは、後にUXデザインをヤフー社内で推進していく上で自信にもつながったプロジェクトでした。
このプロジェクトを通じて、自分が学部時代に学んできたデザインは企業の中でもできるし意味があるんだ!と思えて、それまでモヤモヤしていたものがだいぶすっきりした記憶があります。また、それまでデザイン研究は大学の先生たちがやっていて企業の中のデザインとは遠いものという印象があったのですが、企業のデザインの現場でも役立つデザイン研究もあるという可能性をこの研究プロジェクトを通じて感じました。
寝耳に水のUXデザインチームリーダー
ようやくやりたいようなデザインの仕事ができ始めたぞ!という社会人4年目の終わり頃、上司から「来期、チームリーダーをやってほしい」と言われました。当時のヤフーはキャリアの方向性として、マネージャーをやっていくか、専門性を発揮していくか、大きく2つの方向性が示され始めた時期で、私は「専門性を発揮していく方向がいい」という話を上司としていました。なので、相談ですらなくいきなり決定事項としてリーダーをやってほしいと言われたときは、「なんで⁉︎話が違う…!」と思いました。でも上司も私の意向は分かってくれていたし、一度マネージャーになったからといってずっとマネージャーの道しかないこともなく、また専門性を発揮する方に移行もできる話もあったので、それなら一度リーダーを経験してみるのも悪くないかなと受け入れることができました。なによりチームメンバーが一緒に仕事したことがある人たちばかりだったので、このメンバーならなんとかやれるかもと思えました。
また、私がリーダーをやることになったチームは、チーム名に「UXデザイン」と名前がついていました。2013年当時としては画期的でした。(それまでデザインチームは「制作1」「制作2」のような名前の付け方が多かったので。)チーム名をつけたのは当時の部長とリーダーの方々でした。このチームはあくまで広告系の部門のデザイン部内の1チームにすぎないとはいえ、広告部門はビジネス、マーケティング、開発など関係者がものすごく多い部門だったこともあり、何をやっているチームなのか分かりやすくする意図もあって、チーム名をつけたという話を聞いた記憶があります。
UXデザインチームのリーダーをやっていた間は、チームで毎週のように勉強会をして、チームメンバーみんなでいろんなUXに関する知見を深めていけたのがとても印象に残っています。私がヤフーのいろんな部署で働いてきた中で、一番熱心に勉強会をやっていた時期だったように思います。
チームリーダーなので、もちろんメンバーとの1on1も毎週やっていました。メンバーが担当する案件の相談からキャリアの相談などいろんなことを話しました。私はリーダーシップ型よりフォロワーシップ型の人間だと自覚していたので、基本は聞き役でメンバーが考えていること、悩んでいることを聞き出しながら、少しでもモヤモヤが解消できればと思って毎回話していました。(当時のメンバーたちが実際どう思っていたかはわかりませんが..)私がチームづくりで一人一人の意見をしっかり引き出すことを大事にしたいと考えるようになったのは、この頃の経験が影響しているのかもしれない、と今になって思ったりします。
初回はここまで。
次回第2章は、デザイン思考、UXデザインが日本で注目を浴びるようになっていったのと同時に、私の活動も広がっていった時期(2013年頃~)をふり返ろうと思います。
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