気候変動と紛争とワインとテラスハウス。

先月の台風に引き続き、過去最大級の台風19号が日本を直撃したというニュースを、祈るような気持ちで追う。温暖化の影響だろうか、こんな時期に立て続けに大型台風が来たことなんてなかったように記憶する。
日本の外に出てから気づくのは、その自然災害の圧倒的な多さ。そんなコンディションにかかわらず、しかし世界有数の経済大国で裕福かつ安全で住みやすい国として現在もあり続ける母国を、純粋に心から、誇りに思う。6年間、45ヶ国を旅したり住んだりしたけど、優越でも贔屓目でもなく、日本は本当に、素晴らしい国だ。

異常気象は私が旅をし始めた2014年頃から、世界のあちこちで耳にした。モンゴルで夏なのにヒョウが降ったり、トルコでは早すぎる初雪に遭遇した。つい先月、お隣の国ウガンダではなんと、大粒のヒョウが降った。アフリカの赤道近くの国で、だ。ウガンダに住む友人から送られてきた写真には、庭のビーチパラソルやジャックフルーツの木の葉が散々に穴だらけになった姿が写っていた。ここケニアでも、雨期がいつも通りに来ず、ここ数週間は一日でどんより曇り空からの土砂降り、からの一面青空、を繰り返している。まるで読めない天気に、人々はただただ呆れ気味で笑う。

気候問題、はともすれば、地球の歴史をひっくり返すレベルで危険信号を鳴らし続けているのに、それでも、私の、私たちの毎日は、日々の些細な出来事に一喜一憂を繰り返すことで忙しい。

先々週、我が家に新しいハウスメイトが入居してきた。
ソマリア系イギリス人のアハメッド。女の子4人暮らしのアパートに、突然イケメンで長身の人あたりの良い男子が入ってきたのだから、ガールズトークオンパレードだった我が家の雰囲気がガラリと変わる。寝巻きしか着ていなかったケニア人のナタリアは突然室内でドレスアップしだし、ユダヤ系アメリカ人エイミーは自室のシャワーが壊れたのだ、とバスタオル一枚の姿でアハメッドのシャワーを借りようとする。そんなアハメッドはなぜか私にシーシャを吸いに行こうと誘い、すると二人で出かけたことを妬んだナタリアが、アハメッドに私のディスプロモーションを始める。その件で私とナタリアが喧嘩している間に、フランス人のアデルは夜中にアハメッドの部屋に押しかけてちゃっかり”寝て”いた。そんなアハメッド旋風の最中、基本ずっと留守のアメリカ人男子フィルの女友達がなぜか彼の不在中に彼の部屋に泊まりだし、ケニア人の男を連れ込んで部屋に”籠って”いる。まさにリアルテラスハウス。そんなめちゃくちゃな日々だけど、でもワインを片手に女の子で集まれば、だいたい何でも笑い話に変わる。一晩して目が覚めれば、いつだって真新しい今日。

控えめに言っても、日本の外で暮らすこの6年間は、ドラマのオンパレードだ。日本じゃ起き得ない珍物語が、毎日のペースで起きる。それぞれに異なるバックグラウンド、文化を背負う人が集まり共に生きるということが一筋縄でいかないであろうことは想像に容易いけど、リアルは、かなりディープにハードコアだ。わかりあう、とは、お互いの言い分や信条を相手にわかってもらう、というより、私たちはこんなにも違うのだ、ということを真に解ることなのだ、と最近よく思う。80年から続く内戦に今もたくさんの人々が命を落とすソマリアを母国にもつアハメッドが、そのシーシャの夜にソマリアのドキュメンタリーを見せてくれた。世界はお互いをわかりあい助け合いたいのに、いつも何かが噛み合わないから、今もどこかで悲劇は起こり続ける。

さっきまで晴れていたのに、窓を見やると雨が降っている。ナタリアとアデルはついさっきジョギングに出かけてしまった。ポットのお湯を沸かして待っていよう、そうしてみんなであったかいお茶を飲もう。

気候変動も紛争も戦争も、正直私なんかじゃ到底無力すぎて気が遠くなるし、そしてきっと世界中の多くの人がそう思うんだろうけど、私はただただ今日も、目の前の自分の人生に起きる出来事に一喜一憂しながら、でも、等身大の私で、出来うる限りの愛と思いやりを注ぎながら生きてゆくんだろう。見て育ったアニメも映画も、話す言葉も主食も、目の色も肌の色も、何もかも違う人たちと。

ナタリアとアデルが帰ってきた。雨は止んでまた晴れている。暑い、と叫んでいる。冷たい水をコップに入れてあげよう。

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