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【短編小説】望月パセリとつきあうということ(1/4)

「いま、どこにいますか?」

 ファミレスのシートに座って、メニューを開き、なにを食べるべきか真剣に悩んでいると、ラインが入った。

 僕がいまどこにいるかというと、高田馬場のファミレスにいる。それはいいのだ。

 ラインの送り主は、最近つきあい始めた望月パセリである。ちなみにパセリというのは本名で、純日本人である。それもいいのだ。

 問題は、当の望月パセリはいま僕の目の前にいて、とっくに食べたいものを選び終えて暇なのか、僕の顔を見てにこにこ笑っていることなのである。

「あの、これ、ラインで返さなきゃだめ?」
 パセリに訊いてみる。
「ううん。いい」
 パセリは相変わらずにこにこ笑っている。

「ごめんね。俺、選ぶの遅いよね。昔から優柔不断で、なかなか決められないんだよ」
 言い訳をする。

 つきあい始めてまだ二週間。
パセリも僕のことをあまり知らないだろうと思って。
そして僕も、パセリのことをよく知らない。

 例えば、なんで目の前にいるひとに向けて、「どこにいますか?」なんてラインをするのか。

 最初はいたずらなのかと思ったけれど、こういうことはしょっちゅうあって、そのたびに正直戸惑う。

 僕がパセリについて知っていることと言えば、美術大学の版画科の二年生だということと、にこにこしているけど比較的無口なことと、左手の薬指が異様に短いということと、「短くてしょっぱい恋愛」を繰り返しているということくらいだ。

 彼女の版画は見たことがないし、左手の薬指が小指よりも短いとどのくらい生活に不便なのかもわからない。「短くてしょっぱい恋愛」についても、彼女を紹介してくれた友人がそう言っただけで、実際に知っているわけではない。

「パセリは、もう食べたいもの決めたの? なんにした?」
 パセリは僕のメニュー表のなかを指さして
「オムライス、ポルチーニきのこのクリームソース」
 と言った。そんなメニュー、目に入っていなかった。途端においしそうに見えてくる。

「俺もそれにしてもいい? やだったらほかのにするけど」
 恐る恐る尋ねる。
「もちろんいいよ」
 パセリは笑った。店員を呼んで、オムライス、ポルチーニきのこのクリームソースを二つとセットのサラダ、ドリンクバーを頼む。

「純くんも、光ってるメニュー頼めばいいんだよ」
 パセリは言った。
「え? ひ、光ってるメニューって?」
 パセリのいうことは意味がまったくわからない。
「『私を食べて』って、光ってるメニューあるでしょ」
「う、うん……」
 残念ながら、僕にはどのメニューも同じに見える。光ってるメニューなんてない。

 パセリとは、大学の友人の紹介で出会った。

「お前さあ。つきあってるやついないんだったら、俺の彼女の友達、紹介しようか?」
 世話焼き勝地と言われているその友達は、しょっちゅう知り合いと知り合いをくっつけて回っていた。

「うーん。どんな娘?」
「世田谷美術大学の版画科、二年。結構、美人」

「結構、美人?」
 僕は勝地を疑わしいという目で見る。

「そうだな、三回目に会ったくらいで、『あ、この娘、美人だったんだ!』って思うやついるじゃん? そんな感じの美人」
 その例えはなんとなくわかる気がする。

 恋愛なんてちょっとめんどくさいな、とは思ったけれど、ついつい敷かれたレールの上を走ってしまう癖がある。僕は勝地とその彼女とともに、初めて望月パセリに出会った。

 パセリは細身で、胸もお尻もあんまりなさそうで、白い肌がやけに印象に残る女の子だった。小作りだけど目鼻立ちは整っているのかもしれない。

 ほとんどしゃべらないけど、ずっとにこにこ笑って楽しそうだった。

 まあ悪くないのかもしれないな、と思いながらつきあい始めた。


(つづく)

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