【短編小説】望月パセリとつきあうということ(4/4)
年が明けて十日ほどして、パセリの大学の版画科の展覧会があった。
パセリは裏方で忙しいようだったので、僕はひとりでいそいそと出かけた。
ほかの作品は素通りし、パセリの絵にまっすぐ向かった。
一番目立つ位置に、パセリの版画絵はあった。
『朝の風景』というタイトルの書かれた版画絵は、大きな額縁に収められていた。
まるでパステル画のような色彩豊かで幻想的なその絵は、僕の「版画」というものに対する概念を完全にぶち壊した。
全体が温かく柔らかい赤で、中央に町の様子が藤色やピンクで描かれている。とても小さく、歩いているひとや羊たちが描かれている。
絵のなかには水平に見た世界と、俯瞰で見た世界が同時に存在していた。
のどかで静かな世界。一日の始まり。
この作品を作ったひとのこころがとてもとても温かいのだと、一目で僕は理解した。
「いま、どこにいますか?」
横を見ると、いつのまにかパセリが隣にいてにこにこ笑っていた。
「僕はいま、あの絵のなかにいます」
パセリは微笑んだ。僕はパセリの左手を、しっかりと握りしめた。
《おしまい》
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