【小説】園子シリーズ『中川園子の憂鬱』(5/5)
その数日後、園子はしまうま女の執刀を終えた。起き上がれるようになれば、傷口の様子を見に行く。
患者はたくさんいるので、園子はヒールの音を鳴らして歩き、次々と病室を訪問する。はやてのように訪れ、はやてのように去っていく。それもいつもの仕事だった。
ある日、しまうま女の病室を訪れると、女が電話しながら大声で笑っていた。
「し、失礼しました」
園子はそのまま、急いで部屋を出てしまった。
ショックだった。しまうま女に、あんなにも楽しそうに笑える相手がいるなんて。私なんて、未だにスタッフルームでは浮いたままなのに。
将一郎のことを思った。まだ二回しか会ってないのに、将一郎が世界で唯一の味方のような気がしていた。
携帯を持って、屋上に上がる。将一郎のほうは、きっともう講義は終わっているだろう。
電話を鳴らすと、将一郎が出た。
「あの、お仕事中に、恐れ入りますけれども」
園子が言うと
「どうしたんですか?! 泣いてるじゃないですか!」
将一郎が尋ねた。
「あの、結婚してくれませんか?」
将一郎はしばらく黙っていたが
「僕も園子さんと結婚したいです。でもそういうのは、一時の感情で決めるものじゃないと思うんです。明日、水曜日ですけど、空いてますか?」
「はい。空いてます」
「じゃあ、園子さんのお宅に行ってもいいですか?」
「はい」
「で、なんで泣いてるの? 悲しいことがあったんですか?」
園子は言葉に詰まった。
「いえ。将一郎さん?」
「はい」
「私もしまうまが好きだったんです」
「はい」
「嫌いなふりをしてきたの。馬なのに縞模様なところ、私も好きです」
「良かった。僕も好きです」
後日、この縁談がまとまったあとで、将一郎は院長の妻の従兄弟であることが判明する。
院長にはしてやられたが、園子は、園田園子は、いま一点の曇りもなくしあわせである。
〈おしまい〉
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