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【五木寛之 心に沁み入る不滅の言葉】 第13回

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之講演集


 五木寛之さんの『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』から心に沁み入る不滅の言葉をご紹介します。

 五木さんは戦時中から特異な体験をしています。
 「五木さんは生まれて間もなく家族と共に朝鮮半島に渡り、幼少時代を過ごしました。そこで迎えた終戦。五木さんたちは必死の思いで日本に引き揚げたそうです」(「捨てない生活も悪くない」 五木寛之さんインタビューから)


 今年9月に90歳になるそうです。今日に至るまで数多の体験と多くの人々との関わりを掛け替えのない宝物のように感じている、と思っています。

 五木さんは広く知られた超一流の作家ですが、随筆家としても、講演者としても超一流だと、私は思っています。

 一般論ですが、もの書きは話すのがあまり得意ではないという傾向があります。しかし、五木さんは当てはまらないと思います。 



「人は泣きながら生まれてくる」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 1 (37)

 
 私たちは、それぞれ個性を持ってこの世の中に生まれてきます。
 努力ということについて、私は反省しながら考えたことがしばしばありました。自分は努力できないタイプなんだと、非常に絶望したこともありました。
 子どもの頃、通信簿の片隅によく「勉強はある程度できるが注意散漫」ということばが書きこまれており、母親がいつも笑いながら、「この子は意志が弱いのよね」と、そう言っていました。
 意志を強くするにはどうすればいいか、それなりに中学生高校生の頃は努力したつもりです。
 

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之                  




「人は泣きながら生まれてくる」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 2 (38)

 
 自分が努力型のタイプでないということ、意志が弱い人間であるということ、集中力のない人間だということをいやというほど感じながら、そのことをコンプレックスのように抱いて成長してきたのです。
 考えてみると、意思が強いとか弱いというのも、ひょっとすると人間の手足が長いとか、身長が高い、数学的才能がある、絶対音感を持っている、そういうことと同じように、生まれながらの天賦てんぷの才能のひとつではないか。そんな悲観的なかたよった考え方も、ふと心のなかに浮かんできます。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之                  



「人は泣きながら生まれてくる」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 3 (39)

 
 人間の意志というものは、きたえれば強くなるものだという考えがありますが、意志を強くしようとして、努力をしてそれを鍛えようと思うこと自体に、変な言い方ですが、意志の強さ弱さというものが反映するのではないか。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之                  


出典元

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』から
2015年10月15日 初版第1刷発行
実業之日本社




✒ 編集後記

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』は、講演集ということになっていますが、巻末を読むと、「2011年8月東京書籍刊『生かされる命をみつめて』『朝顔は闇の底に咲く』『歓ぶこと悲しむこと』に加筆の上、再構成、再編集したものです」と記載されています。

裏表紙を見ると、「50年近くかけて語った講演」と記されています。それだけの実績があります。

🔷 「人間の意志というものは、きたえれば強くなるものだという考えがありますが、意志を強くしようとして、努力をしてそれを鍛えようと思うこと自体に、変な言い方ですが、意志の強さ弱さというものが反映するのではないか」

この文章は、じっくり考えるととても深いことを指摘していると思います。
意志を強くしようとしてできる人は、そもそも意志が強い人なのです。
しかし、意志を強くしようとしてもできない人は、途中で頓挫してしまいます。
後者のほうが前者よりかなり多いと推測します。

別の言い方をすると、他人にではなく、自分に勝てない人なのだと思います。
他人に勝つより、自分に勝つほうが難しいのではないかと、考えています。

少し話が逸れるかも知れませんが、もう少しお付き合いください。

孫子の兵法によれば、「戦わずして勝つ」のが最高の勝ち方であると言っています。
戦えば勝っても無傷ではいられません。損害を被ります。

しかし、私は「戦わずして負ける=自滅」ということもあるのではないか、と思うのです。

それは自分との戦いに負けるということです。相手と戦う前にすでに負けているということです。

野球やサッカーなどのスポーツでも、相手と戦う前に自滅してしまうシーンをよく目にします。相手が強すぎるという幻影に怯え、その段階ですでに勝負に負けているのです。自分の力を発揮できなくなってなってしまうのです。

ただ、これだけは言えます。
人間は本来弱い存在だということです。強そうに見えても強がっているだけということがあります。


🔶 五木寛之さんの言葉は、軽妙洒脱という言葉が相応しいかもしれません。軽々に断定することはできませんが。

五木さんの言葉を読むと、心に響くという言うよりも、心に沁み入る言葉の方が適切だと思いました。

しかも、不滅の言葉と言ってもよいでしょう。



著者略歴

五木寛之ひつき・ひろゆき

1932年福岡県出身。早稲田大学露文科中退。67年、直木賞受賞。

76年、吉川英治文学賞受賞。

主な小説作品に『戒厳令の夜』『風の王国』『晴れた日には鏡をわすれて』ほか。

エッセイ、批評書に『大河の一滴』『ゆるやかな生き方』『余命』など。

02年、菊池寛賞を受賞。

10年、『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞受賞。

各文学賞選考委員も務める。






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藤巻 隆
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