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【五木寛之 心に沁み入る不滅の言葉】 第21回
『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之講演集
五木寛之さんの『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』から心に沁み入る不滅の言葉をご紹介します。
五木さんは戦時中から特異な体験をしています。
「五木さんは生まれて間もなく家族と共に朝鮮半島に渡り、幼少時代を過ごしました。そこで迎えた終戦。五木さんたちは必死の思いで日本に引き揚げたそうです」(「捨てない生活も悪くない」 五木寛之さんインタビューから)
今年9月に90歳になるそうです。今日に至るまで数多の体験と多くの人々との関わりを掛け替えのない宝物のように感じている、と思っています。
五木さんは広く知られた超一流の作家ですが、随筆家としても、講演者としても超一流だと、私は思っています。
一般論ですが、もの書きは話すのがあまり得意ではないという傾向があります。しかし、五木さんは当てはまらないと思います。
「生きているだけで」から
五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 1 (61)
いろいろなタイプに人間は生まれついてくる。いろいろな才能や、いろいろな体形を持って生まれてくる。そしていろいろな境遇のなかで育っていく。そして一定時間のなかで生きて、その後は強制的に退場させられてしまう。
そのことがわかっていながら、私たちは絶望せずに一日を生き、二日を生き、三日を生き、というふうにして、十年、二十年、三十年、五十年と生きるわけです。
その営みはなんとすごいことだろうと思うことがあります。
人間は生きているだけで、じつはすごいことなんだな。自分の人生を途中で放棄せずに生きたということは、そのことだけで評価されていいことではなかろうかと考えることがあります。
「生きているだけで」から
五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 2 (62)
いつか、小林秀雄さんと一緒に講演したことがありました。私の前にお話をなさった小林さんは、非常にひょうひょうとした淡々たる話し方で、ウィットとユーモアに富んだお話をされ、お客さんはみんな笑っていたのですが、そこでお話しになっていることは、
「人間はオギャーと生まれたその日から、一歩一歩死へむかって歩いていく旅人のようなものである」
というものだったのです。
そういうお話を笑いながら聞いている聴衆、軽やかにお話しになる小林さん。しかし、そこに横たわっているものは、なんとも言えないくらい重いものであり、そして私たちにとっては大事な問題なのです。
「生きているだけで」から
五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 3 (63)
私たちは人生の不条理というものをひしひしとこの体で感じ、皮膚で感じ、胃で感じ、心臓で感じている筈なのです。
そして、時々えもいわれぬ物思いにふけることがある。
それは頭で哲学をしているということではなく、体が哲学を感じているという瞬間で、それは人間にとって大事な瞬間だろうと思います。
他の生物と人間がちょっと違うとしたなら、それは自己省察をする生物だからだと、ある哲学者が言いました。
そのことばを信ずるならば、我々は頭で自己省察をしなくても、人生とはいったいどういうものなのかということを、体で感じている筈なのです。
出典元
『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』から
2015年10月15日 初版第1刷発行
実業之日本社
✒ 編集後記
『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』は、講演集ということになっていますが、巻末を読むと、「2011年8月東京書籍刊『生かされる命をみつめて』『朝顔は闇の底に咲く』『歓ぶこと悲しむこと』に加筆の上、再構成、再編集したものです」と記載されています。
裏表紙を見ると、「50年近くかけて語った講演」と記されています。それだけの実績があります。
🔷 「小林秀雄さん」
小林秀雄氏といえば思い出すことがあります。
学生の頃、小林秀雄氏の作品を何冊か読みましたが、何回読んでも理解することが難しく感じました。
小林氏の評論の特徴を一言で表現すると、「晦渋」(言葉や文章がむずかしく意味がわかりにくいこと。また、そのさま。難解。 https://dictionary.goo.ne.jp/word/晦渋/)がぴったりです。
小林氏の作品を一度読まれると、私が言うことが理解できると思っています。
なぜこんな表現をするのか考えるだけで、時間が経ってしまったことを思い出します。
そんな小林氏が講演の際には、「ウィットとユーモアに富んだお話をされ」たということに驚きを禁じえません。
⭐ 参考データ
「人生」とは何か?4つの人生観を知って自分の人生を生きよう!
死生観とは生と死の考え方。その日に備えて自分と向き合おう
🔶 五木寛之さんの言葉は、軽妙洒脱という言葉が相応しいかもしれません。軽々に断定することはできませんが。
五木さんの言葉を読むと、心に響くという言うよりも、心に沁み入る言葉の方が適切だと思いました。
しかも、不滅の言葉と言ってもよいでしょう。
著者略歴
五木寛之ひつき・ひろゆき
1932年福岡県出身。早稲田大学露文科中退。67年、直木賞受賞。
76年、吉川英治文学賞受賞。
主な小説作品に『戒厳令の夜』『風の王国』『晴れた日には鏡をわすれて』ほか。
エッセイ、批評書に『大河の一滴』『ゆるやかな生き方』『余命』など。
02年、菊池寛賞を受賞。
10年、『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞受賞。
各文学賞選考委員も務める。
⭐回想録
⭐マガジン (2023.01.18現在)
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