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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 第78回

大人の流儀

 伊集院 静氏の『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院氏はこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

 『大人の流儀3 別れる力』をご紹介します。

 ご存知のように、伊集院氏は小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 第78回

第2章 楽して得られるものなんてない


「大人の男は努力を見せない」から

伊集院 静の言葉 1 (231)

 締切りが過ぎていて、まだ原稿が山ほど残っている時、あの出版社にミサイルか何かが落ちないかナ、とか印刷会社が火事にならないものか、と妄想したことがあった。
 遅筆というより、遊んでばかりいた作家だった。いっとき編集者の間でイニシャルにIがつく三人がともかく原稿が遅いから気を付けろ、と噂になっていた。私と、もう一人は井上ひさしさん、あとの一人はわからない。
 井上さんがどうして遅いのかは知らないが、一度井上さんの小説の舞台になる架空の街の地図を見ると、綿密で地図そのものが作品に思えた。私は感心して、それを見せてくれた老編集者に、素晴らしい地図ですね、と言うと「こういうことに一生懸命だから、肝心の原稿が遅れるんだなあ」と口惜しそうに言った。  

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               



「大人の男は努力を見せない」から

伊集院 静の言葉 2 (232)

 以前は海外旅行の間も原稿を旅の途中で書いてFAXで送っていたが、今はもうそこまでやらない。
 私はワープロではなく手書きなので、深夜いちいちホテルのフロントに原稿を持って行くのが疲れてしまうからだ。それに私は大きなホテルが嫌いなので、フランス、スペイン、イタリアのちいさなホテルに宿泊していると深夜のフロントには英語が話せない人が多く、アフリカから来てまだ片言しか話ができない大男と二人で夜中に調子が悪くなったFAXの機械を前に、あれこれやっていると自分のしていることが嫌になってしまう。
 旅の前にきちんと仕事をこなしていないこちらがすべて悪い。こう書くとイイ加減な作家だと思われるが、以前、眠たくても仕上げなくてはならない時、机についているとそのままうつぶせで眠ってしまいそうなのでホテルの部屋の壁に原稿用紙をピンで止め、立って原稿を書いたことがあった。そしして立ったまま眠っていた。 

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               

                       


「人生には締切りがある」から

伊集院 静の言葉 3 (233)

「あなたがいなくなったら出版社が困るでしょう」
「それはまったくありません。出版社というのはそんなに弱いもんじゃありませんし、作家の替えなんていくらもいるんです」 
 嘘だと思うなら、出版社の社長に訊いてみるといい。作家も棚に陳列してある商品と同じで品切れになれば次の作家がそこに置かれる。そうした何事もなかったように彼等は店先に出て客を呼び込む。
「いらっしゃい。新鮮なのが入りましたよ」
 出版社が冷たいと言ってるのではない。作家と出版社はそういう関係だと言ってるだけだ。企業の性格としては銀行ほどあこぎではないし、冷徹という体質ではない。むしろ甘い方かもしれない。  

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               


⭐出典元

『大人の流儀 3 別れる力』
2012年12月10日第1刷発行
講談社

表紙カバーに書かれている言葉です。

人は別れる。
そして本物の大人になる。



✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます


🔷「作家も棚に陳列してある商品と同じで品切れになれば次の作家がそこに置かれる」

似たような話をした作家がいました。北方謙三氏です。
同様な発言をしたのは、PIVOTというYouTube channel の【作家・北方謙三の生き様】という番組の中ででした。

「いくらでかい顔してたって売れなきゃ置いてくれない」



🔶『大人の流儀3 別れる力』について『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』に言及しています。

伊集院静と城山三郎
『別れる力 大人の流儀3』
私が伊集院静さんに興味を持ったのは、彼の先妻が女優の夏目雅子さんであったこともありますが、『いねむり先生』という題名の小説を読み、不思議な感覚を味わい、また『大人の流儀』という辛口のエッセーを読んだからです。 

由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い p.212


夏目雅子さんのプロフィール




🔶伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。

91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。

作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。


⭐ 原典のご紹介



⭐回想録



⭐マガジン (2023.04.17現在)


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藤巻 隆
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