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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 第80回

大人の流儀

 伊集院 静氏の『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院氏はこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

 『大人の流儀3 別れる力』をご紹介します。

 ご存知のように、伊集院氏は小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 第80回

第2章 楽して得られるものなんてない

「安けりゃいいワケないだろう」から

伊集院 静の言葉 1 (237)

 価格競争は企業を、商品を偏向させる。
 物の正当な値段は、私たちの労働価値と対等にあるものだ。
 価格破壊は企業本体を破壊しかねない。
 ”安物買いの銭失い”という言葉があるが、あれは本当だと私は思っている。
 もうひとつ安過ぎることの弊害は、物を大切に扱わなくなってしまうことがある。
 これが社会に蔓延すると、その国の柱がおかしくなる。  

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               



「人生に無駄な経験などない」から

伊集院 静の言葉 2 (238)

 ”何事も経験”という言葉がある。
 私はこの言葉は男への訓だと考えている。
 言葉の解釈は、どんな事柄、出来事であれ、それを身体なり、こころで当事者として接したことは無駄になることではない、という意味で、この訓を少し発展させて捉えると、人生で遭遇したことはどんなことでも”無駄なものは何ひとつない”というあたりか。 

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               

                       


「人生に無駄な経験などない」から

伊集院 静の言葉 3 (239)

 松井秀喜君のことで、スポーツ紙は彼を欲しいという球団がないと書く。これで引退に追い込まれるとも書く。新聞記事というものはスキャンダラスなものを好む。スポーツ紙だろうが、一般紙だろうが基本はすべて同じで、元々が世間の噂を記事にして大衆に読ませたのが新聞だ。大衆はスキャンダラスなものを好む。そうであるから新聞も、記者も所詮、正義だ、理想だと語るのは端っからおかしい。
 私は今回の松井選手の立場は、当人も家族も辛いかもしれないが、彼にとってはむしろ良いことかもしれないと考えている。
 何事も経験である。
 彼は歳のわりに人間ができていると言われているが、私は三十八歳は、その歳なりの所にしか人としていないと思う。
 甲子園のスター、巨人軍の四番、ヤンキースでWシリーズのMVP。花舞台の申し子のごとき野球人生だ。
 話す機会が、時折あり、性格も、礼儀正しさも、皆一級だが、足りないものがあるとしたら、辛酸を舐めた経験が、あの骨折以外にない。人が自分を認めてくれないというのは世間の半分以上の人が受けていることである。それも知る方がいい。
 大人の男は、辛い、酸っぱいトンレルを抜けて出てくれば、風情、かたちが良くなる。
 私は時々、彼に言う。野球だけが人生じゃない。人生を好打できる方が百倍もイイ。 

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               


⭐出典元

『大人の流儀 3 別れる力』
2012年12月10日第1刷発行
講談社

表紙カバーに書かれている言葉です。

人は別れる。
そして本物の大人になる。


✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。
伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。
伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます


🔷「”何事も経験”という言葉がある。
 私はこの言葉は男への訓だと考えている。
 言葉の解釈は、どんな事柄、出来事であれ、それを身体なり、こころで当事者として接したことは無駄になることではない、という意味」

昔、3K(経験、勘、根性)という言葉を揶揄する時代がありました。
「古い」とか「時代遅れ」と言われました。

しかし、思いがけず、経験が見直される時代がやってきたと思っています。

生成AIと言われる、ChatGPTがこの世に出て、数ヵ月で世界中の2億人の人たちが使い始めました。その後も利用者は急増しています。

あるYouTubeチャンネルを観ていたら、「コンサルティング業界はChatGPTの出現で初級コンサルタントは不要になった」と意見を述べている人がいました。

YouTubeチャンネル【ChatGPTでコンサルは消える?】コンサルバブル大崩壊/泥臭い経験こそ武器になる


なぜだと思いますか?

ChatGPTを利用すれば、コンサルティングに必要な概念を理解し、初級コンサルタントだとクライアントに提言できるまでに日数がかかることをいとも簡単にテキストで生成できるからです。初級コンサルタントは不要になるのです。実際にそうなるかどうかは断言できませんが。

但し、当たり前のことですが、ChatGPTは人間のようにクライアントの元に出向き、コンサルティングすることはできません。

しかし、経験豊富なシニアコンサルタントは、ChatGPTが生成したテキスト(提言)を加筆修正し、クライアントに提示できるようになります。

つまり、経験豊富なシニアコンサルタントが、ChatGPTを駆使してクライアントごとに提言案を作成し、それをアレンジして自分の言葉で提言すれば良いことになります。

ChatGPTはクライアントに対する実践「経験」はないので、その部分を経験豊富なシニアコンサルタントが担当することになります。

初級コンサルタントは経験が乏しいので、的確な提言ができないのです。

一方、経験豊富なシニアコンサルタントは「私の経験によれば……」「私の実績では……」という枕詞を使って、クライアントに説得力のある提言ができます。

そのことが、「どんな事柄、出来事であれ、それを身体なり、こころで当事者として接したことは無駄になることではない」という言葉につながってきます。

思いがけないところで、コンサルティングとChatGPTがつながることを知りました。


🔶『大人の流儀3 別れる力』について『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』の中で言及しています。

伊集院静と城山三郎
『別れる力 大人の流儀3』
私が伊集院静さんに興味を持ったのは、彼の先妻が女優の夏目雅子さんであったこともありますが、『いねむり先生』という題名の小説を読み、不思議な感覚を味わい、また『大人の流儀』という辛口のエッセーを読んだからです。 

由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い p.212


夏目雅子さんのプロフィール



🔶伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。
91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。
作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。


⭐ 原典のご紹介



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藤巻 隆
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