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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 第102回 『大人の流儀4 許す力』から


訃報

2023年11月24日夜に伊集院静氏が亡くなりました。73歳でした。
ご冥福をお祈りいたします。
非常に残念です。「大人の流儀」をもっと長い間拝読したかった……。





大人の流儀

 伊集院 静氏の『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院氏はこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

『大人の流儀4 許す力』をご紹介します。

 ご存知のように、伊集院氏は小説家(直木賞作家)で、さらに作詞家でもありますが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 第102回 『大人の流儀4 許す力』から


第1章 許せないならそれでいい

「忘れることができなくて」から

伊集院 静の言葉 1 (303)

 世の中の、作家に対する誤解というのはたいしたもので、小説家がこの世のあらゆることに精通していたり、男女の厄介事、果ては人の生き死に至るまでわかっていると思い込んでいる人がいる。
 人間の苦悩、哀しみはたしかに小説の大切なテーマ、肝心の所にあるが、小説家もまたそういうものに対して、悩んだり、戸惑ったりしていると考える人は少ない気がする。

大人の流儀 4 許す力 伊集院 静 


「忘れることができなくて」から

伊集院 静の言葉 2 (304)

 世の中の、作家に対する誤解というのはたいしたもので、小説家がこの世のあらゆることに精通していたり、男女の厄介事、果ては人の生き死に至るまでわかっていると思い込んでいる人がいる。
 人間の苦悩、哀しみはたしかに小説の大切なテーマ、肝心の所にあるが、小説家もまたそういうものに対して、悩んだり、戸惑ったりしていると考える人は少ない気がする。

大人の流儀 4 許す力 伊集院 静 


「忘れることができなくて」から

伊集院 静の言葉 3 (305)

 私は週刊誌で、人生相談というか、悩みの相談の欄を持っているが、それは洒落というか、半分冗談でやっていることで、見知らぬ人の相談に何かを答えているとはさらさら思っていない。
 私は自分のことを他人に相談したことは一度もない。人の相談事も聞かない。
 当たり前だ。こちらがどうしたものやらということだらけなのに、他人の相談事に応えられるはずがない。 

大人の流儀 4 許す力 伊集院 静 


「忘れることができなくて」から

伊集院 静の言葉 4 (306)

『忘れなさい』

 これが本音、結論だが、はい、わかりましたという人はまず一人もいないだろう。
 忘れられないのではなく、忘れようにもその人のことが頭の中、身体の中、耳の底にも、目の奥にも、匂いまでが……、消えないのが家族、肉親、近しかった存在というものである。
 それ故に忘れなさい、というのは答えにならないのである。そこで、
『時間がクスリになります。それまで踏ん張りなさい』
 と応える。そう言っても、
「そうですか、わかりました」
 とすぐに言う人もいない。
 あなたは私の気持ちがわかっていません、と胸の中で大半の人が思っている。

大人の流儀 4 許す力 伊集院 静 


「忘れることができなくて」から

伊集院 静の言葉 5 (307)

 私は前妻を病気で亡くした夜の、内輪の席で彼女の祖父に呼ばれた。
 私たちの結婚は皆に賛成されたわけではないが、この祖父だけは心底喜んでくれた。
「何でしょうか」
 私が祖父のそばに寄ると、小声で言われた。
「すぐに後添いのちぞを見つけなさい」
「えっ?」
 妻は死んだばかりである。まだ隣の部屋に遺体があった。
「君は若い。人生はこれからだ。あの子のことは忘れてすぐにい人を見つけなさい。わかったね」
「…………」
 私は何も答えられなかった。

大人の流儀 4 許す力 伊集院 静 

⭐出典元

『大人の流儀 4 許す力』

2014年3月10日第1刷発行
講談社


表紙に書かれている言葉です。

あなたはその人を許すことができますか。


✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます

冒頭の「訃報」で書きましたように、2023年11月24日に急逝されました。
非常に残念です。『大人の流儀』の続編を拝読したかった……。


 私は前妻を病気で亡くした夜の、内輪の席で彼女の祖父に呼ばれた。 私たちの結婚は皆に賛成されたわけではないが、この祖父だけは心底喜んでくれた。「何でしょうか」 私が祖父のそばに寄ると、小声で言われた。「すぐに後添いのちぞを見つけなさい」

亡くなった前妻の祖父に、前妻の亡骸のそばで「すぐに後添いのちぞを見つけなさい」と言われるケースはめったにないでしょう。

いろいろな想いが頭の中を過ぎり、深い悲しみに沈んでいる状態にある著者になぜこのような言葉を投げかけたのか、と考えてみましたが、なかなか結論は出ませんでした。

悪意に解釈すれば、孫娘とはもう縁が切れたのだから、さっさと他の女性と家計を築いて欲しい、うちの家系とはもう繋がりは切れたのだから、という気持ちから発した言葉かもしれません。

一方、善意に解釈すれば著者はまだ若いので、孫娘のことに拘泥せず、これから先の人生を考えて、「すぐに後添いのちぞを見つけなさい」と言ったのかもしれません。

どちらが真意なのかはわかりません。

いずれにせよ、しばらくして、伊集院氏は女優の篠ひろ子さんと再再婚しました。

(3,035 文字)


🔶『大人の流儀3 別れる力』について『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』の中で言及しています。

伊集院静と城山三郎
『別れる力 大人の流儀3』
私が伊集院静さんに興味を持ったのは、彼の先妻が女優の夏目雅子さんであったこともありますが、『いねむり先生』という題名の小説を読み、不思議な感覚を味わい、また『大人の流儀』という辛口エッセーを読んだからです。 

由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い p. 212 


夏目雅子さんのプロフィール



🔶伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。



<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。
91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。
作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。




⭐ 原典のご紹介

許す力 大人の流儀4


別れる力 大人の流儀3


続・大人の流儀


大人の流儀



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藤巻 隆
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