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記録ずくめの最強メーカー 黒霧島 5000日戦争 老舗蔵元の「反常識」経営 2014.11.10 2/3 2014-11-13 19:19:39
<このページでは、『日経ビジネス』の特集記事の概要紹介と、管理人のコメントを掲載しています>
記録ずくめの最強メーカー 黒霧島 5000日戦争 老舗蔵元の「反常識」経営 2014.11.10 2/3 2014-11-13 19:19:39
CONTENTS
PART 1 記録ずくめの全国制覇 こんな会社、見たことない
PART 2 完全ドキュメント 創業80年目の一念発起
「黒霧島」、全国制覇への5000日
第1章 1996年春 3代目、就任
第2章 1998年夏 黒霧島、誕生
第3章 2001年夏 決戦、福岡
第4章 2004年秋 生産革新
第5章 2006年夏 大型投資
第6章 2011年春そして首都圏へ
PART 3 クロキリ戦略を大企業のグローバル化に応用する
第1回は、
PART 2 完全ドキュメント 創業80年目の一念発起
「黒霧島」、全国制覇への5000日
第2章 1998年夏 黒霧島、誕生
第3章 2001年夏 決戦、福岡
第4章 2004年秋 生産革新
を取り上げます。
今週の特集記事のテーマは
1998年の発売以来、「焼酎500年史」に例がない
快進撃を見せ、その結果、霧島酒造は2012年、
売上高で三和酒類を抜き日本一に躍り出た。
その成長力や収益力は名だたる大企業すら圧倒し、
今や同社は、1990年大後半以降のデフレ下で
最も事業拡大に成功した最強国内製造業の一社と
言っていい。
老舗蔵元の戦略には、業界の常識を否定し自社に
最適化した、多くの最新経営理論が盛り込まれていた
(『日経ビジネス』 2014.11.10 号 p. 026)
です。
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今特集記事は「黒霧島」という焼酎の老舗蔵元、霧島酒造の経営戦略等にスポットを当てています。
「黒霧島」という同社を代表する焼酎の話が、多く出てきますが、決して酒類の話だけではありません。
そこは、『日経ビジネス』ですから、ビジネスの観点から分析し、霧島酒造の驚くべき経営の秘密を余すところなく描いています。
あなたは「黒霧島」をご存じですか? 飲んだことはありますか?
前口上はこれくらいにして本題をスタートしましょう!
PART 2 完全ドキュメント 創業80年目の一念発起「黒霧島」、全国制覇への5000日
このパートでは、3代目就任から霧島酒造が変貌した経緯からお伝えしていきます。
再来年で100周年を迎える同社が、創業者イズムを否定してまで改革に乗り出した経緯に着目して、ご覧ください。
一朝一夕では改革はできませんが、トップの高い志と、最後までやり抜く強い意思は、不可欠だったでしょう。
前回は、第1章 1996年春 3代目、就任までをご覧頂きました。
急逝した先代の後継者となった、二人の兄弟の大胆な決断が、その後の霧島酒造の快進撃の原動力となりました。
第2章 1998年夏 黒霧島、誕生
いよいよ「黒霧島」の登場です。
「黒霧島」が発売されたことで、焼酎業界の勢力図は塗り替えられました。
当時は大半の蔵元がすっきりと仕上がる白麹を用いて仕込んだが、味に深みやコクを出せる黒麹の商品が地元の酒飲みに受けた。
発売は87年。10年近く過ぎて市民権を得つつある状況を見て、霧島酒造社長の江夏順行にあるアイデアが芽生えた。
「黒という新しいカテゴリーを本格的に作り、戦争を仕掛ける」。
こうして「黒霧島」開発の火蓋が切られた。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 p. 032
ところが、営業部隊の反応は冷ややかだったそうです。営業マンたちは現状を見て判断します。
「時代の流れは『脱芋』『脱九州』」(p. 032)という言葉で、「麦や米の焼酎に力を入れるべき」(p. 032)と一歩も譲らなかったといいます。
そこで、順行さんは新商品開発を社内の特命チームに託すことにしました。
不本意ながら麦や米の焼酎の開発を検討しつつも、順行は「黒い芋焼酎」開発を社内の特命チームに託した。その一人は、先代社長の順吉に薫陶を受けた奥野博紀だ。
奥野は地元宮崎大学で微生物を学び、霧島酒造に84年入社。入社当時は焼酎を一滴も飲めなかった奥野だが、入社1年目から順吉の補佐に抜擢された。
「ブレンダー」の見習いである。
実は、先代の順吉が社長室をもぬけの殻にしたのは機械作りに加え、75年から焼酎のブレンドに病み付きになったからでもある。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 p. 032
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霧島酒造の焼酎は良質かつ
豊富な水が支えている
(写真=上:小森園 豪)
記録ずくめの最強メーカー 黒霧島
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10
特命チームに新商品開発を託したのは、「密造酒」作りとも言えます。
ですが、任を受けた特命チームは極秘裏に開発を進めなければなりません。
さらにバックアップしてくれる大人物が必要です。
その役割を果たしたのが、順行さんの弟で専務の拓三さんだったのです。
奥野をフォローしながら、開発の陣頭指揮に立ったのが、専務の拓三だ。拓三は発想を思い切って切り替える。
芋焼酎だから芋臭くないといけないという考えを捨てたのである。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 pp. 032-033
黒霧島の誕生に重要な役割を果たしたのは、水でした。
米どころと言われる地域は、皆、水量が豊富で、水が美味しいと言われます。
新潟県、秋田県、岩手県そして、日本一の米どころ北海道などもそうですね。
開発を進める上で強みになったのが工場周辺で湧き出る水だ。拠点を置く都城は霧島と桜島の間の盆地に位置し、火山灰の影響で水はけが良いシラス台地として形成された。
地下150mに40億トンとも見込まれる水が自噴し、霧島酒造は先代の順吉が55年に掘削に成功。
適度なミネラルと炭酸ガスを含む水が存分に使えることは、新しい芋焼酎を作る上で大きな助けとなった。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 p. 033
一歩一歩、商品化を進めていったのですが、さらに重要な決断をしました。ラベルの色です。
専務の拓三さんは、「インパクトを重視し黒に金地を提案」、営業側の猛反発を退け、「自分の考えを貫き、黒霧島が世に生まれた」そうです。98年6月のことだったといいます。
『日経ビジネス』取材班は、「全国制覇を支えた戦術」として6つ挙げています。
1つ目は、「弱者の戦略」で一点突破でした。
2つ目は、トレードオフ・マトリックスです。
「従来の芋焼酎」から脱するには、芋風味を弱くするか、大量生産するか、どちらかの選択しかなかったのが業界の構図。この2つはトレードオフ(二者択一、二律背反 註:藤巻隆)の関係にあった。
霧島酒造はこれを結果として否定し、「芋臭くないメジャー焼酎」を作り出すことに成功した。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 p. 033
下の図表をご覧ください。
「霧島」と「黒霧島」の比較が掲載されていますが、私の五感では、その違いが分かりません。
焼酎に詳しい方なら、この違いが手に取るように理解できることでしょう。
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5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10
レーダーチャートの上から時計回りに、「あまみ」「うまみ」「後切れ」「原料香」「まるみ」の5項目で表しています。
「霧島」はほとんど正五角形をしていますが、「黒霧島」は「後切れ」を強く出し、「原料香」を大幅に減らしています。
五角形の形状を比較すれば、一目瞭然です。
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霧島酒造の全国制覇のカギとなった黒霧島。ポイントはトレードオフ(二者択一)関係を打ち破ったイノベーションにある。その構図はトレードオフ・マトリックスで説明できる。K.I.T.虎ノ門大学院の三谷宏治教授は「上図の黒霧島が現在いるポジションは実現困難で誰も手を出さなかった。そこにあえて進んだことで他社が追随できない価値を持った」と指摘。もともと、芋焼酎は各蔵元で細々と作られ、芋の香りに自らの存在価値を認めていた。それを打ち破ったのが図の左上に位置する「森伊蔵」「魔王」「村尾」など「幻」と呼ばれる焼酎だ。芋の香りを抑え上品な味わいで人気が出た。しかしここに進出したメーカーの多くは希少性にこだわり、大量生産には関心がなかった。一方、今までの芋臭い焼酎のまま生産量を増やしたのが図の右下に位置するメジャーメーカーだ。
「従来の芋焼酎」から脱するには、芋風味を弱くするか、大量生産するか、どちらかの選択しかなかったのが業界の構図。この2つはトレードオフの関係にあった。霧島酒造はこれを結果として否定し、「芋臭くないメジャー焼酎」を作り出すことに成功した。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 p. 033
第3章 2001年夏 決戦、福岡
新商品開発が済んだら、次にやるべきことは「黒霧島」をいかにしてお客様に知ってもらうかです。
とにかく、商品名を知ってもらわないっことには始まりません。そして、飲んでもらうことです。
そこで展開したことは、ビール業界に激震を起こした試みが参考になったのです。
住友銀行(現三井住友銀行)副頭取からアサヒビール社長に転籍した、樋口廣太郎さんは「キレがあってコクがある」というイメージを実感してもらうために、全国的な試飲キャンペーンを実施しました。
スーパードライは確固たる地位を築き、万年4位だったアサヒビールを首位に押し上げる原動力になったのです。
樋口さんの企画力の勝利と言えます。
霧島酒造の話に戻します。
焼酎業界では前代未聞の販促キャンペーンを敢行したのです。アサヒビールの販促キャンペーンの手法を真似ただけではなく、一捻りしたのです。
黒霧島は「朝」「駅」で出勤前のサラリーマンに配布した。当然、サンプルは「職場」に持ち込まれる。
最大の目的は話題作りにある。
「今までにない商品なので、とにかく飲んでもらうしかないと思った」
1993年入社の営業マン、小出水政義は当時、夕方2000本の無料サンプルを翌朝のために用意したと言う。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 pp. 034-035
●霧島酒造の流通網
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つまり、「昔ながらの“ドブ板営業”も大きな効果を発揮した」(p. 035)のです。
そしてもう一つ奏功したのは、「ハローレディー」を活用し、地道な販促活動を継続したことです。
あえて女性の販促部隊を組織したのは、福岡という“アウェー”で突破口を開くには、その方が有利と判断したからだ。
「女性ならではの視点で、お店をこんなレイアウトにしたらどうかと提案してもらえる」。
北九州市で「酒のフジヤ」を経営する山岡一幸は、ハローレディーによる営業を高く評価している顧客の一人だ。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 p. 034
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福岡の酒屋を次々に開拓した
(写真=菅 敏一)
記録ずくめの最強メーカー 黒霧島
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10
インパクトのある戦略と、地道な販促を継続して行なうことが重要だ、と分かります。
『日経ビジネス』取材班は、「全国制覇を支えた戦術」として6つ挙げています。
1つ目は、「弱者の戦略」で一点突破で、2つ目は、トレードオフ・マトリックスでした。
そして、3つ目は、インパクト重視フリー戦略です。
霧島酒造は「朝」「駅前」で配布し「職場に持っていかせる」という戦略で、訴求力を倍増させた。
熱意と工夫、アイデア次第では、たとえ資金力に限りがある中小企業でも、大企業を打ち負かすプロモーションは可能になる。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 p. 035
下の画像をご覧ください。
「博多の飲食店では女性が黒霧島を飲む姿がどこでも見られる」というキャプションが付いています。
博多の女性は焼酎好き? それとも黒霧島が好き?
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飲む姿がどこでも見られる
(写真=菅 敏一)
記録ずくめの最強メーカー 黒霧島
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10
全国制覇を支えた戦術 3――営業販売
インパクト重視型フリー戦略
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ポイントは3つある。一般的なフリー戦略なら、お酒は「夜」「繁華街」で配り、「自宅」で試してもらおうと考える。だが、霧島酒造は「朝」「駅前」で配布し「職場に持っていかせる」という戦略で、訴求力を倍増させた。
熱意と工夫、アイデア次第では、たとえ資金力に限りがある中小企業でも、大企業を打ち負かすプロモーションは可能になる。霧島酒造の福岡攻略はその事実を如実に示している、と言えそうだ。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 p. 035
第4章 2004年秋 生産革新
黒霧島が大ヒットして難題が持ち上がりました。
注文に生産が追いつかなくなったのです。
品切れを起こしてしまったのです。機会損失です。
営業部員は、多くの酒類販売店主や、小料理屋の女将たちからもお叱りを
受けました。
その原因は、原材料である「芋」の収穫時期にありました。
芋焼酎には決定的な弱みがあった。芋はすぐに傷んでしまい保存が利かない。
このため、通常の方法では、芋の収穫できる9月から12月まで、年間100日 しか工場を稼働できないのだ。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 p. 036
そこで生産力を麦や米並みに引き上げる方法はないか、と検討した結果、あるアイデアを思いついたそうです。それは、「冷凍芋」の活用でした。
原料を冷凍して仮に1年中保存できれば、100日どころか、通年で芋焼酎を生産することが可能になる。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 p. 036
ところが、均質な芋がなかなか手に入らないことが分かり、「通年生産するには農家を囲い込むしかない」(p. 037)という結論に至ったそうです。
芋の冷凍保存方法にも難題が浮上しました。試行錯誤の末、ノウハウを蓄積していきました。
「冷凍室」でマイナス35度に急速冷凍すると、芋はクギを打てるほどカチンカチンの状態になる。それを、芋の収穫期が終わった後の仕込みに使うのだ。
霧島酒造は、通年生産の達成と同時に、酒類業界全体でも珍しい、大規模な 農家の囲い込みに乗り出す。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 p. 037
農家の囲い込みのために、霧島酒造は大胆な仕組みを取り入れました。
それは、「豊作、不作にかかわらず、毎年、栽培面積に応じ、一定の収入を保証する仕組みを取り入れた」(p. 038)のです。
Win-Winの関係の構築ですね。
冷凍芋の製造工程
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この冷凍芋で生産する
記録ずくめの最強メーカー 黒霧島
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10
『日経ビジネス』取材班は、「全国制覇を支えた戦術」として6つ挙げています。
1つ目は、「弱者の戦略」で一点突破で、
2つ目は、トレードオフ・マトリックスでした。
そして、3つ目は、インパクト重視フリー戦略でした。
4つ目は、価値逓増型サプライチェーンです。
サプライチェーン全体に利益をもたらし、「ウィンウィン」の関係を提供するそのさまは、米アップルが音楽配信サービスで確立したエコシステムに近い。
ブレインゲイトの酒井(光雄)社長は、「時間が経てば経つほど、互いの利益が増える価値逓増サプライチェーン」と表現する。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 p. 037
全国制覇を支えた戦術 4――生産体制
価値逓増型サプライチェーン
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面積単位で買い入れる独自の方針により、農家はコスト削減を迫られるどころか、豊作、不作にかかわらず、安定的に収益を手にすることが可能になる。一方、通年生産のため、品質が高い国産の芋を安定して大量に調達したい霧島酒造にとっても、この仕組みがもたらすメリットは大きい。
5000日戦争
老舗蔵元の「反常識」経営
2014.11.10 p. 038
今回は、非常に長いブログとなってしまいました。できるだけ霧島酒造の戦略等をお伝えしようとしたために、多くを盛り込み過ぎたかもしれません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
最終回は、
PART 2 完全ドキュメント 創業80年目の一念発起
「黒霧島」、全国制覇への5000日
第5章 2006年夏 大型投資
第6章 2011年春そして首都圏へ
PART 3 クロキリ戦略を大企業のグローバル化に応用する
をお伝えします。
🔷編集後記
この特集記事(元記事)が公開されたのは、10年前のことで、アメブロでも10年前(2014-11-13 19:19:39)のことでした。
大幅に加筆修正しました。
この記事を読むまで、黒霧島についての知識は皆無でした。
しかも名称から先入観で地酒かと思いました。まさか焼酎だったとは!
黒霧島に次いで赤霧島も発売しています。黒の次は赤。そしてさらになんと白霧島まであるとは。
私は下戸なので黒霧島も赤霧島も飲んだことがありません。もちろん白霧島も。
若いころは上司に連れられて飲み屋に行き、ビールの他に下町のナポレオン「いいちこ」を飲んだ記憶があります。レモン割りやウーロン茶割りであれば悪酔いはしなかったようです。
霧島酒造の公式ウェブサイトを見てみましょう。
この公式ウェブサイトの中に、『おいしさの秘訣は100%へのこだわり』というウェブページがあります。こちらをご覧ください。
4つのこだわりについて解説しています。
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『製造工程 本格焼酎ができるまで』にご興味のある方は、下記のウェブページをご覧ください。
7つの工程があるそうです。
工程1 芋の選別
工程2 製麹・一次仕込み
工程3 芋蒸し・二次仕込み
工程4 蒸留
工程5 貯蔵・熟成
工程6 ブレンド
工程7 瓶・パック詰め
『データで見る霧島酒造』というウェブページには興味深い数字が掲載されています。
1例を挙げると、下記の図表があります。想像以上に大きな桁の数字で驚きました。
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とても楽しめました。
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