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■第7回 経営理念はあるけれど浸透も継続もできていません (1)

1 ホームページに掲げた経営理念が逆効果に!?

 理念経営へのホンネの疑問として質問をいただく、というより、よく耳にするのが「経営理念はあるけれど浸透も継続もできていません」という各社の現状です。

 今や特段に理念経営を標榜していない会社であっても、ホームページをネットで検索すれば、どこかに「経営理念」(または社是、社訓など)が掲載されています。

 しかも多くの場合、トップページの近く。メニューでいえば前のほう、あるいは後ろのほうでも事業概要の前には書かれているケースがほとんどです。少なくとも「経営理念は大事にしなくちゃいかんなあ」という気持ちが伝わってきます。

 その上で「経営理念はあるけれど浸透も継続もできていません」とおっしゃる方々は、経営理念として掲げてはいるが従業員にも浸透できているとはいえない。いわんや従業員が常日ごろから意識して行動できているとはいえないと感じているようです。

 端的に言えば、“絵に描いた餅”です。

 会社としては「イマドキ、ホームページに経営理念が書いてないなんてかっこ悪い」と思って掲載だけはしているのでしょうが、取引先や消費者の目にはどう映っているでしょう。

 「この会社、こんなことを理念に掲げているけれど、実際はちっともそうじゃない」と陰で笑っている。最悪の場合、「実際は掲げている理念と反対のことやっていないか、信用できないな」と逆効果になっているかもしれないのです。

 「いやいや、ホームページに掲げた理念が絵に描いた餅になっている会社なんて山ほどあるでしょう。みんなそんなものだと思っていませんか」。

 かつてはそうだったかもしれません。が、理念経営の良さを理解し、本気で理念の実現を目指している会社は増えています。

 もし競合他社の中に、掲げた理念を本気で目指してまい進している会社があったらどうでしょう。いやが応でもあなたの会社と比較されます。

 例えば「同じようにお客様が大事と言っているけれど、こっちは大手なのにちっとも伝わってこないな」となってしまうのです。

 「そうか、そんなことならいっそ“絵に描いた経営理念”の看板など下ろしてしまおう」。

 一つの選択肢だとは思いますが、掲げた理念にこだわりがあるのであれば、下ろすのではなく、この際看板に違わぬように従業員にも浸透させ、行動に移していってはどうでしょうか。

 そう申し上げると、中には「では、ある程度従業員にも浸透させ、行動に移していくことができるようになってからホームページに掲げるようにするよ」とおっしゃる方がいます。それでは順序が違うと私には思えるのです。


2 まず、会社が本気で理念の実現を目指すことを宣言する

 「他社のようにホームページにはまだ掲げないけれど、今日から当社はこの経営理念の実現を目指していきます」と宣言したとして、果たして従業員にどれほど会社としての本気が伝わるでしょうか。

 ホームページへの掲載は、ある意味で“会社としての世の中への宣言”なのです。

 公の場で宣言した以上、やらないと恥ずかしい。実際、先ほど触れたように目にした取引先や消費者は感じるわけですから、やらないわけにいかない。従業員も宣言と合せて「会社も本気なのだな」と思うでしょう。

 上が本気でないことに対して、下はついていきません。

 上が本気なら下も必ずついていくわけではありませんが、少なくとも会社や上司が本気でないことに、従業員は本気で従うことはないのです。

 そう、経営理念の社内への共有浸透の第一歩は、「会社が本気で理念の実現を目指すのだということを示すこと」、それも社長自らが先頭に立って示すことなのです。

 前段が長くなりましたが、『武田斉紀の「理念経営 ホンネの疑問」』シリーズ。今回のテーマは「経営理念はあるけれど浸透も継続もできていません(1)」です。

 さて、ホームページにも掲載したまま、会社も上司も本気であると宣言したとしましょう。ご想像の通り、これだけでは従業員はほとんど動き出さないでしょう。

 みんな目の前の仕事で忙しい。真面目な人ほどできるだけ余計なことは考えずに仕事に集中したいと思うでしょう。彼らは経営理念の内容を否定するつもりはないし、むしろ良い話であって、いつか目指せるものなら理想だなと分かってはいるのです。

 ただ経営理念の内容が遠い先の話に思える、あるいはもっと自分より上の立場の人が目指す世界だと思える。目の前の仕事に結びつかないし、結びつけて考えられないのです。

 となれば本気の宣言に続く第二歩としてなすべきは、「なぜ経営理念が必要かを知ってもらい」、従業員一人ひとりに自分のこととして「経営理念の内容を理解してもらう」ことです。

 「詳しく理解してもらわなくても、上から指示すればいいじゃないか」と考える方もいらっしゃるでしょうか。

 業界・業種にもよりますが、世の中や市場の変化は激しく、お客様の要望も多様化して二つとして同じでない状況が現場では起こっています。自社の目指す経営理念に向けてどう対応していくべきか、上司がいちいち判断して細かい指示を出していけるでしょうか。

 それでは上司が仕事になりませんし、生産性も上がりません。

 もし現場の従業員一人ひとりが、経営理念がなぜ必要で、当社の理念の内容をしっかりと理解できていたらどうでしょう。

 現場を最もよく知る彼らが、実現すべきことを状況に合わせて判断できれば、上司がいちいち指示を出すよりも臨機応変に対応できるでしょう。人を介さない分、スピードも生産性も上がります。

 そして最も重要なことなのですが、上から指示されてやる仕事より、自ら判断して行動する仕事のほうが何倍も楽しいのです。

 良きにつけ悪しきにつけ、自分の判断に対する反応がダイレクトに返ってくるからです。

 最初のうちはみんな面倒臭いと思うようです。上司から命令された通りにやるほうが楽(ラク)だと。

 しかし慣れてくると、自分の創意工夫に対する手応えが得られます。うまくいけばうれしいし、成長感も感じられます。相手から褒められれば単純にうれしい。上司の指示ではなく、自分の意思だからなおさらです。

 従業員の判断力は繰り返していくうちに学習を重ねて向上していくでしょう。会社全体として、スピードも生産性も、そして理念の実現に対するレベルも上がっていくのです。


3 従業員一人ひとりが自分の部署、自分の担当する仕事で語れるようになる

 一気に理想の状態までお話してしまいましたが、順を追って取り組むべき最初のプロセスを説明していきましょう。

 第一歩としては、1.全従業員を集めた社員総会などで社長自ら理念実現への本気を宣言し、詳しく説明すること。書面でもフォローします。

 「なぜ経営理念が必要かを知ってもらい」、「経営理念の内容を理解してもらう」のです。社員総会といったリアルな場のほうがいいのは、例えば社内ネットで種々雑多な情報と一緒に流すよりずっと特別感があって耳に入るし、“本気なのだ”と伝わるからです。

 ただしリアルな説明であっても1回聞いただけで全員が理解できるはずもなく、社内ネットや社内報などでも特集してフォローしましょう。文字情報は残るし、読み直せる利点があります。

 続くプロセスとして、2.本気の宣言から間を空けずに、従業員全員を対象とした初期研修を実施します。

 間を空けない理由は、宣言を聞いたことを忘れてしまうから。またせっかく本気を伝えたはずが、間が空いてしまうと本気と感じられなくなってしまうからです。

 従業員が多い会社や一斉に現場を空けられない場合は、何回にも分けて同じ内容で実施します。従業員の負担を軽減するため地域ごと、またどうしても参加できなかった人のための補助回も多少は必要でしょう。

 後で「受けてないからわからない」という人が出ないよう、“全員が一度は受けて”同じスタートラインに立つことが大事です。

 理想は1日コース、最低でも半日は必要です。研修の到達目標は、「経営理念や行動規準の各項目を、一人ひとりが自分の部署、自分の担当する仕事で語れるようになること」。

 自部署に新人が入ってきたときに、彼らに「当社の経営理念や行動規準を、担当する仕事で分かりやすく説明してほしい」と質問されたと想定すると分かりやすいでしょう。

 参加者一人ひとりが一気にそこまで行くのは難しいので、半日から1日かけてみんなで額に汗しながら目指すのです。

 掲げた経営理念が「お客様からたくさんの“ありがとう”の言葉をいただく」だとしましょう。部門や担当業務によって、どうすればお客様から“ありがとう”の言葉をいただけるかは異なるはず。

 直接お客様と接する部署もあれば、接点が少ない、あるいは直接接しない部署もあります。自部署の現実で考えることで、経営理念も現実のものになっていきます。

 3.研修の最後では、従業員一人ひとりにも理念の実現に向けた「明日の行動宣言」をしてもらうといいでしょう。「お客様からたくさんの“ありがとう”の言葉をいただく」ために明日何から始めてみるのかを、紙に書いて発表するのです。

 宣言しっ放しではなく、4.あらかじめ現場の上司に働きかけておいて、翌日か週末のミーティングで、一人ひとりの行動した結果や感想を交換してもらいます。

 行動しなければ理解していないことと同じ、行動してこそ価値があることを分かってもらいましょう。

 行動すれば周りやお客様から何らかの反応や手応えがあるものです。良い反応ならうれしいし、良くなければ次こそ良い反応が得られるように、振り返って試行錯誤をしてみる。

 仲間と話し合うことで、良い事例をまねしたり、新たなアイデアも生まれるでしょう。5.それを次の行動宣言へとつなげ、試行錯誤を重ねていくのです。

 現場で確実に「明日の行動宣言」の実施と検証をできたか確かめるために、上司には簡単なリポートを義務付けましょう。実施状況もさることながら、広く共有したい良い話を書いてもらい、他部署にも紹介するのです。

 こうして各部署で試行錯誤を重ねたり、良い取り組みを吸い上げて他部署や会社全体で共有することは、次回ご紹介する「継続」のためにもとても重要です。

 一人ひとりの取り組みを周りが認め、良い取り組みや成果を褒め合ったり、表彰したりすることで「継続」やさらなるレベルアップへとつながっていくのです。


4 会社や上司がサポートしながら、全員で小さなPDSをぐるぐる回す

<経営理念を社内に共有浸透させるための最初のプロセス>

1.全従業員を集めた社員総会などで社長自ら理念実現への本気を宣言し、詳しく説明した上で、書面でもフォローする
2.本気の宣言から間を空けずに、従業員全員を対象とした初期研修を実施する
3.研修の最後では、従業員一人ひとりにも理念の実現に向けた「明日の行動宣言」をしてもらう
4.あらかじめ現場の上司に働きかけておいて、翌日か週末のミーティングで、一人ひとりの行動した結果や感想を交換してもらう
5.それを次の行動宣言へとつなげ、試行錯誤を重ねていく

 社長自ら宣言し説明して、研修を通して「なぜ経営理念が必要かを知ってもらい」、「経営理念の内容を理解してもらう」ことができた後は、いわゆるPDS(あるいはPDCA)。「理解する」プロセスと「実行する」プロセスを交互に繰り返すのです。

 新しく人に何かを教える際に「理解する」と「実行する」の繰り返しはとても有効です。

 最初はそもそもどういうことかが分からないので、「理解する」プロセスが必要です。ここで言えば、社長自らの本気の宣言を聞く、詳しく説明してある書面を読む、初期研修で学ぶなどが当たります。

 これで一通り「理解する」ことはできるでしょうが、本当に分かっているかというとまだ“頭では分かっている”状態です。

 ここから自分のこととして“ふに落ちる”状態にするために、次に「実行する」プロセスが必要なのです。

 理解した上で自分なりにPLAN(P)してDO(D)してみると、何らかの結果が得られます。その結果をSEE(S)して、良い結果なら振り返って何が良かったのかを考え、次回もっと良くなるPLANを考える。

 良くない結果なら振り返って何が原因かを考え、次回は良い結果となるようにPLAN(P)を変えてみる。これがまた「理解する」プロセスになっていて、次のDOでさらに「実行する」。“頭で分かった”上で、“感覚的にも(体でも)分かる”の繰り返しです。

 このように理念の実現に向けて「理解する」プロセスと「実行する」プロセスを交互に何度も繰り返すことで、より高いレベルで社内への共有浸透が進んでいくのです。

 社内の改善活動などでは、PDSを「全員で」「何度も」「スピーディーに」ぐるぐると回せば回すほど成果も大きくなるといわれます。

 お客様の声を商品やサービスにタイムリーに生かすのが上手な会社でも、同じことが起こっています。大きな会社方針としての理念の実現においても、これを実践すればいいでしょう。

 目の前の仕事の小さな一歩からでいいのです。「全員で」「何度も」「スピーディーに」ぐるぐると回してみてください。そのためには、会社や上司からのサポートも欠かせません。

 ご説明してきた<経営理念を社内に共有浸透させるための最初のプロセス>の後半部分は、地道で地味なプロセス見えるかもしれません。が、一つの方針や考え方が本当に共有され、浸透していくプロセスはそうしたものなのです。

 地道でこつこつと粘り強く現場をフォローしてみてください。その先には、従業員一人ひとりがやりがいを感じながら学習を繰り返し、会社全体として、スピードも生産性も、理念の実現に対するレベルも上がっていく世界が待っています。


5 社内への共有浸透や継続にはさまざまなノウハウや仕組み作りも必要

 いい機会だから会社の基本的な考え方を経営理念にまとめたい、あるいはこれまでのものを見直したいというご相談はよくいただきます。

 通常3カ月ほどで言葉にするまでをご支援して完成となるのですが、納品すると社長が笑顔でこうおっしゃるのです。「おかげで自分の考えていたことが整理されてすっきりしました。ありがとう、いいものができました」と。

 私は即座に「最初にも申し上げましたが、経営理念をまとめるのはスタート地点であって、それをただ掲げるだけでは絵に描いた餅ですよ」とお伝えするのですが、以降ご相談の依頼とならないことが少なくないのです。

 しばらくしてから「社内への共有浸透は進んでいるでしょうか。もしうまくいっていないようでしたら、どういう形でもご支援しますよ」と声をかけると、「まあ自分たちでやってみますからご心配なく」と返ってきます。

 探りを入れた感じだと、ホームページには掲載されているものの、社内への理解はまだほとんど進んでいないようでした。

 社内への共有浸透や継続には、さまざまなノウハウや各社に合った仕組み作りも必要です。試行錯誤を重ねながらでも、本当に自社でできるならよいのですが……。

 私としては、「経営理念はあるけれど浸透も継続もできていません」という会社がなくなることを望むばかりです。

 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回は引き続き「経営理念はあるけれど浸透も継続もできていません(2)」と題して、特に「浸透」後の「継続」の仕方についてホンネの疑問にお答えしていきたいと思います。


(著作:ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田 斉紀)
※上記は、某金融機関の法人会員向けに執筆した内容を一部改編したものです。本文中に特別なことわりがない限り、2020年6月時点のものであり、将来変更される可能性があります。※転載される場合は著者名とコラムタイトルを必ず明記ください。

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