アイアンクロー(2023)
ショーン・ダーキン監督の「アイアンクロー」を観た。
僕は(「タイガーマスク」以外)プロレスにはほぼ無頓着に生きてきたので、"鉄の爪=アイアンクロー"が得意技だったアメリカプロレスラーの存在は知っていても、この映画のベースとなった実話、アイアンクローの主フリッツ・フォン・エリックの家族が次々と悲劇に見舞われ「呪われた一家」と呼ばれるようになるエピソードは知らなかった。
それくらいプロレスやフリッツ・フォン・エリックのことを知らない僕が観ても、この映画はとても胸に来るものがある良い作品だった。
元AWA世界ヘビー級王者だったフリッツ・フォン・エリックは、自分の息子たちに徹底的な特訓を施し、自分が成し得なかったプロレス界の頂点を目指す野望に燃えていた。
厳格な父を敬愛する素直な息子たちは、たとえそれが自分のやりたいことと違っていても、父親の望むままにレスラーとして努力し、強靭な身体を作るために過酷な訓練に身を費やし、筋肉増強剤や、痛みを緩和するための薬物を濫用するなど、我が身を顧みずプロレスに人生を捧げる。
自分の心は封じ込め、父親の望むがままに無理をし続ける素直な兄弟たちは、それでもなお寄せられる過大な期待に身体と心を蝕んでいく…
とにかく兄弟愛の強さが素敵だ。そんな兄弟愛すら自らのエゴのために踏み躙り、家族を自分の支配下に置き、コマとして思うがままに使おうとするフリッツ・フォン・エリックの毒親ぶりには驚きを通り越して呆れる。が、家族はそんな風に思うことなく従順に従っていく。
最初にも言ったが、プロレスの知識がなくても、毒親映画として、美しき兄弟愛の映画として、家族映画として、そしてプロレス映画として、とても見応えのある作品でした。オススメします。