コーダ あいのうた(2020)
シアン・ヘダー監督「コーダ あいのうた」を観た。作品としてはミニシアター系の系譜ながら、意外に拡大公開されている、ちょっといい話で心温まる映画。(シャンテじゃなく、TOHOシネマズ日比谷、新宿、渋谷、六本木でかかってる!)
家業の漁を手伝いながら港町で暮らす高校生のルビーは、両親と兄の4人家族の中で一人だけ耳が聞こえる健常者で、幼い頃から家族と世間の“通訳”を担いながら生きてきた。
陽気で優しく和気藹々とした家族は傍目から見てもとても素敵だが、ルビーにのしかかっている負荷については実はちゃんと理解できておらず、「家族なんだから助け合うのが当たり前」=「ルビーはいつまで経っても家族から解放されることはない」という現実を重く見ていなかった。
新学期、秘かに憧れるクラスメイトのマイルズと同じ合唱クラブに入ったルビーは、顧問の先生に歌の才能を見出され、名門音楽大学の受験を強く勧められる。最初は自分に自信がなく戸惑っていたルビーだが、先生の熱心な指導やマイルズとのデュエット練習を通じて、自分が心から歌うことが好きで音楽の道に進みたいことに気づき始める。
しかし、ルビーの歌声が聞こえない両親は「歌が好きって? 音痴なんじゃないの!?」みたいな調子で娘の才能を信じられず、家業を手伝う方が大事だと全く理解してくれない。そんな両親の無理解に反発したことでちょっとした事件が起きてしまい、ルビーは自分の夢を捨てて家族のサポートを続けることを選択するのだが…。
耳が聞こえない家族が合唱クラブの発表会にルビーを応援に行き、何も聞こえないものだから手話で「ほらほら、ルビーがステージにいるわ!」「衣装が似合ってるわね!!」なんて会話をせわしなくやっているのと、周囲の観客がルビーの歌に感動して引き込まれている対比を描くシーンが実に素晴らしく、胸を衝かれる。
本作でルビーの家族を演じるのは実際に聴覚に障がいのある俳優さん達で、特にお母さん役を1986年の映画「愛は静けさの中に」でアカデミー・主演女優賞を受賞したマーリー・マトリンが演じているのにはビックリした。まさに1986年以来の再会!!! また、映画の頭から最後までこれだけ徹底して手話による会話を見るのも凄い経験でした。(すべて字幕を付けてくれるので違和感なく理解できるのだけど。)
本作はフランス映画「エール!」を元にした再映画化だということなので、そちらの方も今度ぜひ見てみたい。
(2022/1/30記)