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ドリーム・シナリオ(2023)
前作「シック・オブ・マイセルフ」で、過剰な承認欲求によって自分の身体を傷つけてまで注目を集めようとする主人公を描いたクリストファー・ボルグリ監督の脚本&監督新作「ドリーム・シナリオ」を観た。(劇場と機内上映で2回観た)
平凡で押しの弱い大学教授のポール・マシューズは、地味ながら妻と2人の娘と一緒にごく普通の幸せな生活を送っていた。
学校の授業も特に人気はないし、自分の研究を本にすると言ってても口だけで実際に執筆はしていない、微妙な自己顕示欲はありながら行動に移せないダメなヤツだけど、そんな彼のことを家族は大切にしてくれている。
そんなある日、ポールが何百万人もの夢の中に一斉に現れたことから、彼は一躍有名人になる。メディアからも注目を集め、夢だった自著の出版まで持ちかけられて有頂天になるポール。「きっと、自分は特別な存在なのでしょう」とか言って舞い上がっちゃう。
ところが、そんなまたある日、これまでは夢に登場しても棒立ちで何もせず人畜無害だったポールが、夢の中で悪事を働くようになる。女性を襲ったり、ホラー映画ばりに人を斬殺したり…
確かにそれは夢の中の出来事なのだけど、あまりにも恐ろしい夢を見た人々は、現実世界のポールのことも恐れるようになる。
自分では何もせずに有名になって有頂天だったポールは、自分では何もしないのに皆んなに恐れられ、迫害される立場になってしまうのだ。
そんな不可解な現象を描く本作は決して清々しい映画ではないけど、簡単に持ち上げられて、簡単に落とされる現代社会の風潮も相まって、奇妙な興味深さに満ち溢れている。
この主人公ポールを演じたニコラス・ケイジが、この役は彼以外には絶対演じられないレベルに見事で、彼の演技を見るだけでも価値ある一作。
鑑賞後感は決して心地よくないけどね…