アメリカン・フィクション(2023)

今年のアカデミー賞候補作品ながら日本では劇場公開されず、たいした告知もなしにサラッとAmazonプライム見放題に入っている(ある意味でお得とも言えるわけですが…)コード・ジェファーソン監督「アメリカン・フィクション」を見た。

主人公の"モンク"は頭も良く、しっかりと自分の意見を持った人物で、作家と大学教授を兼業している。彼は自身が黒人であるものの、黒人に対する差別的な言葉を否定するではなく、その言葉が生まれた背景を含めて理解すべきと大学で教え、白人の学生に「それは黒人に対する差別用語だ！」とクレームを入れられたため、しばらく休暇を取るよう指示されてしまう。

一方、純文学作家としてのモンクは、授業と同じく真面目で堅苦しい内容の作品に拘るあまり、「黒人が書いているのに、作品に黒人らしさが足りない」と新作もボツになって、しばらく新刊を出せないでいる。「世の中で売れているのは侮辱的な表現に頼るわざとらしい“黒人のエンタメ”ばかりで嫌になる！」とモンクは憤るが、実際にそのような本がベストセラーになるアメリカ。

仕事がうまくいかないところに、母が認知症になったり身内に不幸があったり踏んだり蹴ったりな状態に陥ったモンクはやけになって酒をたらふく飲み、酔った勢いで大嫌いな"ステレオタイプな黒人小説"を書き上げる。

もちろん、モンクはこの馬鹿馬鹿しい小説を世に出す気はないし、エージェントも「なにこれ!?」って受け止めるんだけど、モノは試しでエージェントが出版社に送った本作がウケて、トントン拍子に出版や映画化や大々的なキャンペーンが決まっていく。慌てて出版を止めようとするモンクだが、転がりだしたものは簡単には止まらないし、実際のところ母親を介護施設に入れるためにはお金も必要…

と、自ら軽蔑する“ステレオタイプの黒人の本”を書いたことによって、自ら偽善の核心に迫ることになってしまう風刺的なコメディ作品で、実に高度に捻りの効いたとても面白い作品だった！

作品賞、主演&助演男優賞、脚色賞、音楽賞の候補になったの、全部納得した。もう一度見たい。Amazonプライムですぐに見れちゃうけどね。

【追伸】
実際にアカデミー賞の脚色賞を獲りました。