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瞳をとじて(2023)

待ちに待ったビクトル・エリセ監督の31年ぶりの新作「瞳をとじて」を観てきました。前作「マルメロの陽光」の淡々と自然な日常を描く演出からガラリと変わって、しっかりとドラマを見せてくれる作品でした。ビクトル・エリセ監督作品の中で最もセリフが多く、最も対話する人物のクローズアップが多い作品だったのではないでしょうか。

主人公ミゲルは元映画監督。自身の2作目となる映画「別れのまなざし」の撮影中に主演俳優フリオが突然失踪し、映画は未完成のまま。その後、ミゲルは再び映画を撮ることはなく、過去と決別して作家として暮らしていた。

「別れのまなざし」の中断から22年が過ぎたある日、ミゲルのもとに"人気俳優失踪事件"の謎を追うドキュメンタリー番組の出演依頼が来る。懐事情もあって出演を決めたミゲルは、親友でもあったフリオと過ごした日々や「別れのまなざし」の撮影時の記憶を辿りはじめる。

そして、番組が放送された直後に、フリオに似た男が海辺の施設にいるとの情報が寄せられ…

監督自身が「この映画が観客に向かって描こうとする物語は、 密接に関わる2つのテーマ“アイデンティティと記憶”を巡って展開する」と語るように、かつて友人同士であり、監督と俳優であった2人の“アイデンティティと記憶”を巡る旅が展開する。

映画の構成も面白く、未完成の映画「別れのまなざし」の前半部、監督と俳優を巡る一連の物語、登場人物が勢揃いした上での映画「別れのまなざし」後半部の上映と、非常に巧みに、全ての要素が静かに美しく幾重にも積み重ねられていく。

ビクトル・エリセ監督の過去作品を全く知らなくても、単品の作品として見事な仕上がりなので、是非観ていただきたい一作。

監督の長編第1作「ミツバチのささやき」が好きな人には、その主役だったアナ・トレントさんが再び登場し、「ソイ アナ」という懐かしのセリフを口にする場面も嬉しい。

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