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カラスの飼育(1975)

カルロス・サウラ監督の1975年作品「カラスの飼育」を見ました。「ミツバチのささやき」のアナ・トレントに惚れ込んだ監督が彼女を主演に撮った作品だとか。

マドリードの中心部にある古い家では、11歳のイレネ、9歳のアナ、5歳のマイテの三姉妹と、職業軍人の父、半身不随の祖母、家政婦のロザが暮らしていた。アナたちの母親は数年前に亡くなっており、映画の冒頭で父親が亡くなって、母の妹にあたる叔母が三姉妹の面倒を見ることになったのだが…

この映画は徹底してアナの視点で描かれているのだが、アナに見えているのは現実だけでなく、恋しい母の幻影であったり、過去に見た母の姿であったりする。彼女がぎゅうっと目を閉じて、開いたら、そこには母が現れる。

そんな彼女が見ているものを何の説明もなく、そのまんま映像で見せるものだから、観客には最初は何が起きているのかわからない。映画が進むうちに、これは幻想なのか… これは過去の出来事なのか… と徐々に要領が掴めてくる感じだ。でも、"なるほど、そういうことか"と思ったところで、母親役のジェラルディン・チャップリンが(二役で)成長したアナを演じて過去を振り返ったりするから、これまたややこしい。

愛する母を亡くし、浮気ばかりで母を悲しませ死に追いやった(とアナは信じている)父を憎み、自分たちに厳しく接する叔母をうざったく思い、気に入らない人間は死んでいなくなればいい!と思う9歳の子供の素直さと残酷さが描かれていく。(叔母は一生懸命丁寧に接しているのですけどね…)

「カラスの飼育」とは、「カラスを育てると、やがて目玉をえぐられる」(日本だと「飼い犬に手を噛まれる」)というスペインの諺から来ているそうで、本作で描かれるアナの行動、事の重大さを理解せずに純粋に自分の望みを果たそうとする子供の姿を指し示す。

決してストレートに面白い作品ではないが、現実と幻想が入り混じった少女の見る世界と、まだ世の中の常識をわかっていない子供の残酷さを見せてくれるという意味では珍しさもあって興味深い。

大きな黒目でじっと大人たちの世界と、幻想の世界をまっすぐに見つめるアナ・トレントは立派にこの映画を背骨となって支えている。

あと、三姉妹が両親の喧嘩を真似るシーンはなかなか面白い(悲しいけど)。

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