国境の夜想曲(2020)
ジャンフランコ・ロージ監督の「国境の夜想曲」を観た。
2001年の同時多発テロ、2010年のアラブの春、2021年のアメリカ軍のアフガニスタンからの撤退と、侵略、圧政、テロリズムが数多くの人々を犠牲にしているイラク、クルディスタン、シリア、レバノンの国境地帯を監督が通訳を伴わずにひとり旅をしながら、そこに残された人々の声に耳を傾け、記録した映像を100分に編集したドキュメンタリー。
それぞれのシーンにどこで何を撮った映像なのか説明は一切なく、戦禍の国境地帯で生きる人の姿をいくつかの角度から切り取っていく。全般的にとても静かで、場面ごとに何かが起きるわけでもドラマがあるわけでもなく、ブツリブツリと映像が途切れては、また次の映像が始まる。
油田の炎が夜空を染め、遠くに銃声が響く中、小舟に乗り込み釣りをする男。銃声と隣り合わせに毎日の糧を得る。
クルド人自治区の治安部隊ペシュメルガは、ISISの襲撃を見張りつつ、一時も休まずに銃を構え続ける。
精神科病楝では、患者たちが芝居の練習をしている。その内容は、祖国で起こった悲劇。
夜明け前から家族のために、海で魚を捕らえ、草原で猟師のガイドをして日銭も稼ぐ、家族の生活のために働き続ける少年。
幼いヤジディ教の子供たちが、自分たちの恐ろしい体験を描いた絵を見ながら、ISISに襲われた記憶を語る。
ISISに連れ去られた娘が残した恐怖に慄く音声メッセージを、涙をぬぐいながら何度も聞き続ける母。
そんな風な映像が、次から次へと何の説明もなく繋げられていく。そこにあるのは地続きの現実。そこに映画としての面白さはないが、少しだけ現実を知ることができるドキュメンタリー。
ただ、"インタビューやナレーション、テロップなど通常のドキュメンタリー映画で使用される手法を一切用いない"スタンスをとる一方で、芝居の台詞の形でメッセージを聞かせたり、カウンセラーに対して子供たちに悲惨な体験を語らせたりと、(もちろんわざと演出しているわけではないのだろうが)実質的にインタビューやナレーションを入れたのと同じようなことになっていたりする。さすがにそれくらいはないと、あまりにもわからないよね…