LAMB ラム(2021)
バルディミール・ヨハンソン監督「LAMB ラム」は、静かながら何か嫌なことが起きそうな空気が満ち満ちていて、満ち満ちたままにずーーーっと進んでいく…
アイスランドの山あいにポツンと存在する羊牧場。陽の光が差すこともなく、曇ったまんまで肌寒そうな大自然の雄大な風景が包み込む、子供を亡くした夫婦の淡々とした毎日。
そんな日常に、映画の冒頭から荒い息遣いの"何者"かが割り込んできて、何かが起きる。何が起きたのかはやがて判明するが、"何者"かの正体は映画の最後まで明かされない。
生まれ出でた生き物を夫婦は我が子のように可愛がり、大切に育てる。これまで真っ暗だった世界に光が射したように、奇妙で穏やかな幸せが訪れる。
その"歪な幸せ"の向こうには何があるのか?
終わってみると、この物語を語るだけなら30分程度で終わってしまう内容なのだが、それを驚くほどのスローな展開で描いていく。それでも、一風変わったカメラアングルや、スクリーンいっぱいの大自然の隅っこで動くモノなど画の切り取り方の面白さや、えも言われぬ緊張感で引っ張っていく演出力がすごく、ちゃんと見れちゃう。
そして、何かが起こりそうな期待をさせつつ散々引っ張った挙句に物語は尻切れトンボのような形で終わってしまい、主人公と共に観客も宙に投げ出される。この物語は映画の中で完結せずに、それぞれの観客に委ねられてしまうのだ。
それを良しとするか否かで、この作品の評価は大きく変わる。
個人的には変わった映画を観るのは好きだから、その一点で許すが、「なんじゃこれっ!?」と不完全燃焼になる観客も多いに違いない。