ヒットマン(2023)
リチャード・リンクレイターが監督、ハリウッドで人気急上昇のグレン・パウエルが共同製作・共同脚本・主演を担った「ヒットマン」を観た。
大学で心理学と哲学を教える真面目で几帳面で地道に単調な毎日を送っているゲイリー。彼は機械いじりの趣味を活かして、おとり捜査の機材担当で警察に協力していた。
ところが、ある日、おとり捜査官が現場に来られなくなり、ピンチヒッターとしてゲイリーが代理を務めることに… 慌てふためきオロオロしていたゲイリーだが、いざ殺しの依頼を受ける場面になると、これまでに見聞きしたおとり捜査のノウハウを活かしてヤバい殺し屋を見事に演じてみせる。
これに気を良くした警察は、その後もゲイリーに殺し屋役を担当させるのだが、もともと心理学の先生でもあるゲイリーは殺しを依頼してくる相手を研究し、それぞれに好かれそうなキャラクターになり切っておとり捜査に臨み、次々と成果をあげていく。
そんなある日、マディソンという女性が夫殺しを依頼してきた。彼女の魅力と、支配的な夫に追い詰められて気の毒な様子に絆され、ゲイリーは思わず彼女に殺しを思いとどまらせて、家を出て新しい生活をするようアドバイスする。
これをきっかけにゲイリー演じる"殺し屋 ロン"とマディソンの関係が始まるのだが… これがとんでもない状況を生んでしまう！
殺し屋としての七変化は髪型や衣装も込みの変身だからまあ面白いなって範囲なんだけど、ダサい感じのゲイリー、やたらカッコいいロンを演じ分けるだけでなく、ロンを演じ続けるうちに徐々に(ロンとは違う方向で)カッコ良くなっていくゲイリー。このあたりを見事に演じて見せるグレン・パウエルは、役者としてやはり凄い。
また、心理学と哲学を教えるゲイリーが自分自身のアイデンティティを深く考えることになる設定も効いている。「現実は客観的で不変なものだと思っていたが、我々も不変ではない。なりたい自分を追い求めれば新しい自分になれるのだ」なーんて言っちゃうしね。
映画中盤の昔別れた奥さんとの長めの会話は監督の「ビフォア」シリーズ味があって面白いし、映画全体のを覆うオフビート感と、オフビート故に全く先が読めない展開、そしてラストはマジに「それでええんかーい!?」ってビックリしちゃう。
わかりやすいハリウッド娯楽作的な面白さではなく、わざと外してくる面白さは人を選びそうだけど、個人的にはとても面白かったよ。後味は微妙だけどね…