ファイブ・デビルズ(2021)
レア・ミシウス監督「ファイブ・デビルズ」を観た。こないだ観た「パリ13区」でも共同脚本を手がけてましたね。
非常に鋭い嗅覚を持つ少女ヴィッキーは、いろいろな自然の匂いと一緒に大好きな母ジョアンヌの香りを瓶に集めている。
そんなある日、父の妹ジュリアが10年ぶりにやってくるのだが、なんとなく母とぎこちない関係に見えるジュリアに興味を持ったヴィッキーは、勝手に荷物を開けてジュリアの匂いを瓶詰めにする。
その香りを嗅いだヴィッキーはその場で気を失い… 母が学生だった頃にタイムリープしてしまう! そこで彼女が見た、両親やジュリアや友人達の過去とは!?
セリーヌ・シアマ監督の「秘密の森の、その向こう」でもそうだったが、何か大袈裟な仕掛けがあるではなく、ちょっとしたことで現在と過去を行き来する設定が面白い。香りを嗅ぐ→過去に飛ぶ→一定時間で戻ってくる。
映画の冒頭から何か訳あり風な、寒々しく、ぎくしゃくした人間関係が描かれて観ていて居心地が悪いのだが、ヴィッキーのタイムリープで、そこにある過去が徐々に明らかになっていく展開がミステリーっぽい魅力を醸し出しつつ(物語を推進するエンジンになりつつ)、実は全く違うもの(愛の軌跡)が描かれるという実に変わった、新しい切り口の作品だった。
「シャイニング」や「ツインピークス」の引用とされる居心地の悪い雰囲気作りだとか、展開をミステリー的に推進する演出とか、タイムループによって円環構造に近づいていく物語とか、やがて立ち現れる本当のテーマとか… なかなか興味深い仕上がり。これを96分にまとめている手腕は凄い。
どメジャーな映画とは異なるものの、これもまた映画の面白さのひとつの形。