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松山新時代~伊予鉄道郊外電車最新事情(前編 新型車輌7000系デビュー)
◆はじめに
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伊予鉄道郊外電車とは愛媛県松山市中心部の松山市駅をターミナルとする地方鉄道路線の総称で、松山市~高浜(松山市)間の高浜線、松山市~横河原(東温市)間の横河原線、松山市~郡中港(伊予市)間の郡中線の3路線から構成されています。
2025年春、松山都市圏の重要な足として活躍しているこの郊外電車は2つの大きな変化を迎えようとしています。
本記事では前編・後編に分け、次の時代に相応しい公共交通機関として生まれ変わろうとしている伊予鉄道郊外電車の模様をお届けします。
◆67年ぶりの自社発注新型電車・7000系登場
伊予鉄道郊外電車では2025年2月1日時点で、以下の3つの形式の電車が用いられています。
・700系電車(元京王帝都電鉄(現京王電鉄)5000系)
・610系電車
・3000系電車(元京王帝都電鉄(現京王電鉄)3000系)
このうち、1987年から1994年にかけて伊予鉄道に入線した700系電車は、1963年~1967年に製造された京王5000系を種車としており、製造後60年近くが経過して老朽化が進んでいる状況でした。
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そのため、伊予鉄道にとっては、700系の置き換え用の車輌を調達することが積年の課題となっており、
・大都市圏の鉄道会社から車輌を譲り受ける
・自社発注の新型車輌を導入する
以上のうちいずれかの選択肢を迫られることになりました。
昭和後期以降、電化されている地方私鉄が新型車輌を導入する際は、費用面などの事情から、車輌メーカーに自社オリジナルの車輌を発注するのではなく、首都圏の大手私鉄から自社の線路規格にマッチングした車輌を譲受し、改造のうえ導入するという方法が長らく主流になっていました。
伊予鉄道でも、京王帝都電鉄→京王電鉄から譲り受けた車輌を改造し、700系、3000系として運用してきた経緯があり、700系置き換え用の車輌についても首都圏の大手私鉄から譲り受けるのではというのが、大方の鉄道ファンの見立てでした。
しかし、ここで伊予鉄道は大きく方針を転換。1958年製造のモハ600形電車(廃車)以来67年ぶり(注)となる自社発注の完全新車・7000系を導入し、700系の置き換えに充てることにしました。
この方針転換の背景には、
・700系電車の廃車を進めようとしていた時期に、大都市圏の鉄道会社から伊予鉄道のニーズに合った中古車輌の出物がなかったこと
・バリアフリー化やメンテナンスの効率化といった課題に対応するためには、ただでさえ耐用年数が迫っている他社の中古車輌を改造したうえで導入するより、完全な新型車輌を導入した方が経済性に優れていること
などがあるといいます。
(注)610系(1995年製造)も自社発注の電車ですが、主電動機や制御装置は700系と同じ京王5000系由来の中古品を、台車は東武2000系由来の中古品を搭載しているため、完全な新型車輌ではないです。
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7000系は大阪府東大阪市の近畿車輛㈱で製造され、第一陣の3両編成×2本は2024年秋に松山市の伊予鉄道古町車両工場に到着。
到着後は入念に試運転を繰り返し、2025年2月21日(金)より高浜線・横河原線で営業運転を開始しました。
車体はステンレス製で、伊予鉄道のコーポレートカラーであるオレンジ色、そして黒色のフィルムを貼付して仕上げられています。
一目見た感じ、同じ近畿車輛が手がけた阪神電気鉄道(阪神電鉄)5700系の車体を一回り小さくした(注2)うえで、前面デザインとカラーリングを変えて伊予鉄道風にアレンジしている印象を受けました。
車体外観だけではなく、Youtubeなどで7000系に試乗した方のレポートを拝見した限り、ドア上のLCDモニターやドアのガラス押さえ処理も阪神5700系に準じた仕様のようでした。
内装それ自体は白色基調で、天井の中吊り広告枠と荷棚を廃し、すっきりした仕上がりになりました。
今回伊予鉄道が導入した7000系のように、今後の地方私鉄各社には、大手鉄道車輌メーカーがJRや大手私鉄向けに納入している形式を地方私鉄向けにアレンジしたタイプの新型車輌が増えるのではとする見方があります。
近年のJRや大手私鉄、公営交通事業者の間では、取引関係のある大手鉄道車輌メーカーが規格化したモデルをベースに、事業者それぞれのニーズに合わせたアレンジを加えて設計した新型車輌を導入するケースが増えていますが、今後はこの流れに地方私鉄各社も加わり、新型車輌の調達に係る長期的なコストダウンを図るのではと思われます。
そもそも、鉄道車輌メーカーには車輌設計の標準化を図ってきた長い歴史があり、戦後間もない頃、各地の私鉄が導入した「運輸省(現国土交通省)規格形電車」、戦後の高度経済成長期に各地の私鉄に普及した「日車(日本車輌製造㈱)標準型電車」といった例がありました。
すでに伊予鉄道に先行して、静岡鉄道や一畑電車では老朽化した在来車輌を自社発注の新型車輌で置き換える動きが進んでいます。
地方私鉄向けの「メーカー標準型電車」というモデルが確立され、これをベースにした電車が全国津々浦々に行き渡り、車輌の置き換えに悩む地方私鉄の救世主となる時代は、もうすぐそこまで来ているようです。
(注2)車体寸法は7000系が18m×2.7m、5700系が18.7m×2.8m
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◆消えゆく700系(元京王5000系)
今後の7000系ですが 2026年度までに毎年3両編成×2本が導入され、最終的に3両編成×6本、計18両の陣容になる予定です。
7000系に置き換えられる形で、2025年2月1日現在3両編成×4本・2両編成×3本の計18両が在籍する700系は2027年春までに全車引退、40年近くに及ぶ松山での活躍に終止符を打つことになりました。
今回、7000系最初の2編成が営業運転を開始したのと入れ替わりに、764F編成(3両編成)と760F編成(2両編成)が2月22日(土)限りで営業運転を終えています。
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なお、764F編成のうち1両と760F編成の種車は、1963~64年にかけて製造された京王5000系の初期車(通称・狭幅車)で、その後に増備された車輌(通称・広幅車)と比べて車体幅が10cm狭い造り(注3)になっています。
両編成の引退により、伊予鉄道に残る京王5000系狭幅車は、765Fの725号車のみになりました。
この725号車は全国的に見ても大変貴重な車輌なので、今後多くの鉄道ファンが撮影・乗車に訪れるのではと思われます。
(注3)狭幅車の車体幅は2.7m、広幅車の車体幅は2.8m
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◆前編まとめ
思いのほか長い記事になってしまいましたが、伊予鉄道郊外電車にとって67年ぶりの完全新車である7000系と、同形式により置き換えられる名車700系についてまとめさせていただきました。
大都市圏の大手私鉄の最新鋭電車と遜色無い仕様の7000系電車は、日常的に郊外電車を利用している松山都市圏の人々はもちろんのこと、国内外から松山を訪れた人々にも好評を博するはずです。
続く後編では、伊予鉄道の利用者が新型車輌以上に待ち望んでいたと思われるサービスについて考察してみようと思いますので、しばしお待ちのほどよろしくお願いします。(後編に続く)