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小説・祭りのあと⑤完

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明日で京都を引き上げる。

親しい友人の半数は去年卒業し、今は同学年の数名が残っているに過ぎない。そのほとんどが関西の企業に就職するのだが、何処に配置されるか全く分からない。いま、妙心寺近くの6畳一間の薄暗い下宿の部屋で酒を飲んでいる。

卒業式はロックアウトされてなかった。今日の昼過ぎに勝見の助手の相川女史から卒業証書を貰った。3人で助教授の部屋を訪れたのだが、勝見の姿はなく、相川女史が「あ、ご苦労様。はい、卒業証書よ。頑張ってね」と言って、手渡された。ただそれだけだった。たった紙切れ一枚の卒業式であった。

誰も行く当てもないのだが、自然と足は妙心寺へ向かっていく。我々が一番心の落ち着く所である。

金閣寺、竜安寺などはいつも観光客でごった返していたが、この当時、妙心寺は未だ観光ルートからはずれ、境内ではいつも地元の子供達が縄跳びや鬼ごっこに興じている。20分とぼとぼ歩いて山門に着いた。子供達の声だけが聞こえてくる未だ少し寒さの残る境内のいつもの石の上に腰掛、3人とも子供達の姿を追っているだけだった。

(完)

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ほかにも色々書いていますので、よろしければ図書目録をご覧ください。



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