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小説・強制天職エージェント⑫
「瀬戸さんについて、様々な角度から検討した結果です。まあ、誰もが羨む優良企業を思い切って辞めたあなたです。なんでも挑戦してみればいいんじゃないですか。一応、3か月という期限もありますし。嫌なら辞めて、うちからお金取って、次に行けばいいですよ」
明るく小早川がいうと、それでもいいかという気もしてくる。モニターを食い入るように見つめながら、水島は考えていた。
八重子もそう感じたのかもしれない。どちらにしろ、もう契約を交わしてしまっているから引き返す選択肢はない。それなら小早川の言葉を信じた方が賢明だ。
八重子が覚悟を決めるのに、時間はかからなかった。入社日や仕事内容など、事務的な話を聞くと、「では、よろしくお願いします」と、スムーズに手続きを終えて帰った。
「お前って、つくづく人が悪いな。いつの間に決めてたんだよ」
隣室から戻った水島はぶつくさいった。
「ちょっと前に決めた。口で説明するより、行動した方が早かと思って。説明したところで、納得してもらえる気もしないからね」
と適当な返事をした後で、水島の不満を察して
「最後には分かってもらえると思うから、信じてほしいんだ」
と真剣な顔つきをする小早川。
小早川の奴、絶対、自分が一番賢いと思っている。思慮の浅いオレのことなど、小馬鹿にしているんじゃないか。
そう思うことが昔から多々あって腹が立つのだが、たまにこのように誠実なそぶりをする。冗談めかすわけでもなく、その演技すら1人で楽しんでいるんじゃないだろうか。ウソくさいことしやがって……。などと思いながらも、人のいい水島は、堪忍袋の緒が切れるギリギリのところで許してしまうのだった。
そんな水島の気持ちに気づくことなく──気づいていたとしても無視して小早川はいった。
「ここからが本番だ。水島、君の仕事がカギを握る」
「次はなんだ」
半ばヤケになって聞き返した。
最後まで手の内を明かさない上に、想像の斜め上を行く要求をしてくる小早川のやり方に、水島は慣れてきたつもりでいた。なんでも来い、と。
「次は、君が瀬戸さんの転職先に潜入するんだ」
「えっ?」
また間抜けな顔を晒してしまった。
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