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小説・あるく香りはキンモクセイ①
キンモクセイの香りに包まれ、思わず足を止めた。スマホを持つ手をおろし、辺りを見まわす。
─ここ、どこだっけ
と数秒だけ考えた。
スマホを見ながら歩いても、知らない間に人や車をちゃんとよけられる。慣れた場所なら足が勝手に動くので、放っておいても目的地に着く。周囲の景色なんて見なくても大丈夫だった。
そこは大学近くの公園だった。この日は休日の午後で、友達との約束のため待ち合わせ場所に向かっている途中だったことを思い出した。
まだ緑が残る木々がざわめき、目の前に燃えるように赤い落ち葉がはらはらと舞い落ちる。しゃがんで手に取り、顔を上げると濃厚な香りを放つキンモクセイが目に飛び込んだ。
─なんだ、目の前にあったのか
毎年すぐ忘れるのに毎年思い出す。
見た目は地味なのに、この香りは主張が強すぎるんだ──
────────
見た目は普通、そんなに目立つタイプじゃない。でも、どこか雰囲気があった。
女子たちはミヨシさんを「マイペースな子」だといった。
ミヨシさんはグループでいることは少なく、地味な女子1,2人といるか、1人で過ごすことも多いらしかった。
たまにみんなでしゃべった時もそんなに笑わない。
不機嫌というわけでもなさそうなので、嫌な感じはしないんだけど。
空気を読むタイプではないのかなと思う。
サエキさんは「あの子、変ってるもんね」と周りに言っていた。
みんなうなずいていたから、その通りなんだろう。
話しかけちゃダメってことはないけど、なんか気軽に声をかけてはいけない気がした。……いや、声をかける自信がなかった。言い訳がましいけれど、僕以外のやつもきっと同じだと思う。
初めて話したのは4月の終わりだった。
ミヨシさんの机の横を通りすぎた瞬間、何かが落ちた。
小さい花がついた雑草のように見えた。
誰かの服にでもついていたのだろうか。
「あ、ゴミ──」
「ゴミじゃない」
かぶせ気味にミヨシさんはいうと雑草を拾った。
「雑草でしょ?」
「そうだけど。ゴミじゃないの」
ミヨシさんはもう一度いった。
「……そうなんだ」
やっぱゴミじゃん、と思ったけど言葉を飲み込んだ。
それからというもの、無意識にミヨシさんの机を見るようになった。
いつも何か置いてある。
雑草だけじゃなくて、葉っぱに花に時には石も。ノートなどの陰に置いているのであまり目立たない。たぶん、僕以外は誰も気づいていない。
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