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小説・強制天職エージェント③

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3日後、八重子から入力済みのデータが届いた。

「きたんだ?」
と意外そうにいう水島に
「当然だよ」
と小早川は勝ち誇った表情をした。

小早川とメールで日取りを決め、再び八重子はやってきた。帰ってから気持ちの整理をつけたのだろう、前回とは打って変わって、決意を秘めた表情をしていた。

八重子は30歳、名前を知らない人はいない大手化粧品メーカーの研究員。

父親が高校教師で化学を教えていたという影響もあり、小さい頃から化学に親しんでいた。大学の専攻も、もちろん化学系。大学院卒業後、化粧品メーカーに就職した。入社後は6年間、同じ部署に在籍し研究開発に従事している。
しかし、1か月後に退職する手続きをすでに取った。理由は、人間関係に疲れたため。大手でなくてもいいから、同じような職種を希望しているという。

提出書類の項目には全て答えており、それを見る限り、幸せな家庭で、ごくありふれた人生を送ってきているようだった。面談でも、特に嘘をついている様子もなかった。

「詳細にお答えいただき感謝します。瀬戸さんの希望も承知いたしました。が、先日もお話した通り、全く違う仕事になる可能性はありますので、ご理解のほど、よろしくお願いします。ご了承いただければ、こちらにサインをお願いします」

「はい」
八重子はすぐにペンを取り、美しい筆跡でさらさらとサインをした。

「ありがとうございます。では本日は以上です。1か月以内にご連絡差し上げますので、お待ちください」

「彼女、どう思う?」
八重子を帰し2人になると、小早川は水島に聞いた。

「渡した書類にも細かく書いていて、几帳面で真面目な印象だな。契約書の字もきれいだ。君との会話でも、質問されたことについて、簡潔に的確な答えを返しているようだった。頭の回転も速そうだ。
ちょっと堅い感じはしたが、会社でも仕事はできる方じゃないか。大手化粧品メーカーの研究所なんて、競争率も高そうだし、そうそう行けるところでもないだろう。
院卒で30歳、ということは入社6年目か。新人を抜け出して、これから本格的に仕事に取り組む時期じゃないか。辞めるのはもったいないね」

「僕もそう思ったよ。ただ、恵まれた環境で、自分の専門ど真ん中の仕事ができるっていうのに、さほどやりがいを感じているようでもなさそうだった。あと気になったのは、人間関係の悩みかな。それほど深刻そうには聞こえなかった」

「そう?」

「これは今後、探っていくとしよう。彼女の経歴と大まかな性格はつかめた。よし、次の段階に行こうか」

何をするのか、水島は検討もつかなかった。ここでの本格的な仕事は初めてだったのだ。

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