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小説・強制天職エージェント⑨
それぞれ調査を行い、1週間ぶりに2人は事務所で再び顔を合わせた。
「さて、お互いに報告しようか。まずは僕から。初対面の時の印象通り、仕事ぶりは真面目なようだ。先頭に立つタイプではないし、仕事に貪欲という訳でもないが、自分のやるべきことを理解し、ソツなくこなしている」
話し始める前に入れていたコーヒーを片手に小早川は続けた。
「昼は、食堂で同僚やほかの部署の人間と一緒に食事をとっていた。君のいう通り、弁当は自分で作っているらしいよ。横を通って見てみると、彩りもバランス良く、栄養の事も気を遣っているように見えた。同僚ともそれなりに楽しそうに話していて、静かだが、どちらかというと明るい印象だった」
弁当の中身まで見たのか、と水島は驚いた。
「それから、彼女と同じ部署だったり、何かのきっかけで繋がりのある契約社員たち、あと、ついでに彼女の上司とも面談したよ。彼女の評判は悪くない。控え目な性格だが、芯は強く、仕事の評価も上々」
分かる気がする、と水島はうなずく。
「そんな彼女だから、気にかけている男の上司もいるようだ。今のご時世、セクハラとか言われるとやっかいだから、本人は平等に扱っているつもりらしいが、やはり女性は敏感だね。瀬戸さんを贔屓している、なんてひがんでいる同僚もいるらしい。瀬戸さんがいう苦痛な人間関係とは、このことだろうか。でも、この程度の悩みならどこに行っても同じだろう、とは思う」
「そのくらいで転職なんて甘いな。ありえないよ」
水島の声が少々トゲのある響きだったのは、八重子に向けてというより、自分の経験を振り返って苦々しく思ってのことだった。
普段の本業においても、相談者の転職理由については厳しい目で見ていた。面と向かって本人に言うことはないが、「最近のヤツは些細なことですぐ辞める。忍耐力って言葉を知らないのか」など仲間との酒の席ではよく愚痴をこぼした。
「それが本当の理由ならね」
「本当の理由なら、って引っかかるな。本人がそういっていたんだろう?」
「ああ。しかし、転職エージェントで全てを正直にいう人なんて、あまりいないよ。彼女も例には漏れない。確かに、人間関係が引き金になった可能性はある。
が、真実は複合的に理由が絡み合っていたりするもんだ。正確に紐解くことはできないかもしれないが、こちらの努力次第で、核心に近づくことはできる」
「へえ?」
小早川が何を言いたいのかよく分からず、水島は生返事をした。
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