ディレクターとしてデザインにどう向き合うか
デザイナーと仕事をすることが割とあります。クライアントから依頼のあったデザインをデザイナーに依頼して制作を進めるのですが、このとき僕の立ち位置は「ディレクター」と呼ばれるものになります。主に舞台となるのはPR分野かな。
スモールなビジネスであればクライアントとデザイナーがいればデザインは成立するんじゃないの?と思われるかもしれません。(実際、成立する場面も多々あります。)
ではなぜココに「ディレクター」が入るのか。この疑問を「一般的な広告業界の常識」とは、ちょっと違う角度から紐解いていきます。最後にはさらに一般的なディレクター像とは離れに離れるであろう「新しいディレクションのあり方」についても触れています。
だから完全に我流です。僕なりの方法論だという前提で読んでいただければ幸いです。しかも、ここ1〜2年ぐらいでようやく整理できた方法論なので、昔はそこまで意識できていなかったですけどね。
と言うことで、今日は僕が「ディレクション」をするときに大切にしている①事前の整理作業×2、②デザイン制作が始まってから意識しているスタンス、③今までとは異なるディレクターの立ち方、この3つについてツラツラ書き連ねていきたいと思います。
②と③はやや蛇足ですけどね。①だけでも覚えていただければ何かしら活かせるシーンがあると思いますよ。
「ディレクション」ってよく分からない方でもデザイナーに何かを依頼する際に参考になるかもしれません。あるいはデザイナー側が意識してみても面白いプロセスだと思います。単なるデザイナー個人による創造ではなく「関係性による創造」を効果的に生み出すアプローチだと理解いただければと思います。
01.デザインをはじめる前の「整理」にディレクターのあり方が現れる
分かりやすく説明するために一番ミニマムな形態で考えてみましょう。僕がクライアントから「サービスをPRするためのチラシ」のデザインを依頼されたケースで説明していきますね。具体的なデザイン作業をグラフィックデザイナーに依頼し、僕自分がディレクターとして関わるケースです。
デザインの依頼を受けると、すぐにデザイナーへ話を持っていくわけではありません。まずは自分の中で情報の整理を行います。この「整理」はおそらくどんなディレクターでもやっているコトだと思います。(たまに整理をやらずに右から左で情報を投げる人もいます。笑)
「デザインとは情報の整理と再構築だ」とはよく聞くフレーズで、まさにその通りです。「再構築」の部分は分かりやすく、デザイナーの技量も見えやすい要素です。
でも実は見えにくい「整理」にデザインの大切な部分が詰まっていると感じています。「どんな整理をするか」によって最終のアウトプットはまったく変わってくる。だから「整理の視点」を意識することが大切なのです。
僕がデザイナーに依頼する前に行う整理は2つ、「情報の構図化」と「主観的な物語化」です。
02.事前作業1:「情報の構図化」からデザインする対象以外の全体像を掴みとる
さて、例として挙げるケースは「チラシのデザイン」です。当然クライアントには伝えたいサービスの価値や想いがあります。
この「想い」は話を聞けば十二分に伝わってきます。あるいは言葉にできていない方でもじっくり対話すればボロボロとこぼれてくるモノがあります。その「想い」を拾い上げることは比較的容易でしょう。
しかし、想いとは「発し手の主観」でもあります。「発し手の主観」だけで世界を捉えようとすると実は見えてないモノがたくさんあって、伝えるべき情報を取りこぼすことが多いのです。
だから構図化が必要なのです。サービスだけでなく顧客とその周辺、サービスの提供者、そのサービスが生まれた背景など、様々な要素をフラットに捉えるために1枚の地図を作るイメージです。
フラットに構図を捉えるために、クライアントの視点・クライアントが価値を届けたい顧客の視点・自分の視点・世間の視点など、さまざまな視点を行き来しながら整理していきます。誰にどんな想いがあり、誰のどんな行為が誰にどんな変化をもたらすのか、そんなコトを整理していきます。
だいたい、A4のメモ用紙にビャーッと書き殴りながら整理します。この書き始めるときに次の「物語化」につながるコツがあります。
それは書き始めを「顧客」にして、しかもメモ用紙の「ど真ん中」に配置すること。ココを押さえておくと構図化したあと、物語化がスムーズに進みます。
「顧客」とはクライアントではなく、クライアントの先にいる顧客を指します。つまりクライアントのサービスを届ける相手です。この人を起点に思考を進めていきましょう。
03.事前作業2:「主観的な物語化」から顧客に憑依する
メモ用紙の書き始めを「顧客」にして「ど真ん中」に配置する。その理由は「顧客の思考」を想像するためです。
よく「顧客中心思考」と言うフレーズを聞くことがあります。しかし、本気で顧客中心思考を実践するってスゴく難しいことなんです。どうしても自分たちのサービス中心でモノゴトを捉えちゃうから、その思考を生む根本的な要素自体を変えないと顧客中心思考にはなれません。
そもそも「誰にどんな価値を届けているサービスなのか」はサービスが主語で顧客は目的語です。思考は使う言語に引っ張られます。「このサービスは」で思考している限り、顧客の思考に乗り移ることはできません。顧客中心思考になっているようでなっていない、顧客中心(っぽい)思考です。
だから、顧客中心思考になるために「メモ用紙の中心に顧客をレイアウトする」しかも「顧客から書き始める」のです。たったそれだけのことですが思考のスタート地点が顧客になる意味は大きいと感じています。
サービス中心に考えていた思考が顧客中心になってくると、自分たちに対するモノの見え方もまったく変わってきます。この視点から見ることがデザインに落とし込んだときに大きな意味を持つのです。
さて、この思考ができてくると自分が顧客に乗り移るような状態になってきます。自分=顧客であり、クライアントは自分にとって価値の提供者です。この顧客に乗り移った状態で自分に起こっていること、サービスとの出会い、サービス利用によって生まれる状態を物語化していきます。
物語とは「感情を伴った起承転結」です。
どんな環境に自分がいて、どんな状態にあって、何を感じていて、どんな出会いがあって、何に期待して、行動に移したあとに何を感じるか。このプロセスを起承転結に落とし込んでみてください。そして、その起承転結で自分が何を感じているのかイメージしてみてください。
最初に挙げた「構図化」は客観視するアプローチです。客観視とは言わば神の視点、モノゴトの全体像を掴み取るのに客観視は非常に有効です。しかし、客観視だけではまた情報に不足があります。自分たちが知りたいのは「顧客の主観」です。顧客に乗り移り、顧客の主観を知るためには、感情を伴った起承転結から物語を掴み取ることがスムーズです。
この「構図化(客観)」と「物語化(主観)」を事前に行き来しておく。その全てをデザイナーに伝えるわけではないですが、これらを整理しておくとデザインの方向性にあるべき道筋が見えてきます。準備をキッチリしておくと、その後の進行もスムーズに進みますよ。
04.デザインを進める段階での基本スタンス「損なわず、加速する」
さてさて、整理ができたら実際にデザインを進めていく段階。つまり具体的な「ディレクション」はここから始まります。で、そのときに意識しておきたい自分のスタンスについて触れていきます。
大切にしている考え方は「デザイナーの表現力を損なわない」と「デザイナーの表現力を加速させる」です。一見同じようなテーマだと感じますが、この2つは似て非なるアプローチです。
「表現力を損なわない」とは道に落ちている障害物を取り除く作業、デザイナーの思考を迷わせないための配慮とも言えます。ところが一見すると配慮のはずが逆にアレコレと制約を与えてしまって、自分が障害物をわざわざ設置してしまっている場合もあります。
自分の行為・言動の何が障害物を取り除いて、何が逆に障害物を設置しているのかは常日頃から考えるテーマ。もちろん、相手の思考のクセや相手との関係性によっても変化してきます。仮説立てと対話とアウトプットを繰り返すことで精度を高めていく、当たり前なコトかもしれませんが忘れずにいたいコトでもあります。
対して「表現力を加速させる」とは、デザイナーの創造性を爆発させることです。「損なわない」は障害物を取り除こうとアレコレ気を回すことでもありますが、「加速させる」は逆に「気を遣わない」を実践することでもあります。あるポイント、ある段階、ある状態によっては相手に任せてしまう。しかしその「任せ方」に関係性が現れてきます。
コレがうまくいくと、デザイナーは想像を飛び越えるクリエイティブを見せてくれます。日常的にデザインに触れているディレクターからすればある程度の「着地点」は見えてくるので、その着地点からズレないように誘導しようとします。
この誘導地点にあるのは「お宝」です。しかし、うまく想像を飛び越える現象が起こると「金銀財宝お宝ウエッヘヘヘヘぇ!!!」が見つかります。お宝よりは圧倒的に価値のあるものが見つかるわけですね。
普段からクリエイティブに触れているからこそゴールが見える、でもそのゴールすら飛び越えてくる。そんな爆発はそう簡単に起こるものではありませんが、それを生む「関係性」「対話」「スタンス」を常に模索しています。
05.ディレクターの新しい立ち位置:三角形クリエイティブ
ここ最近、強い実感を抱いているのが「クライアント、デザイナー、ディレクターの三角形」で対話をすることが強い創造を生むということです。
一般的にディレクターの役割はクライアントとデザイナーの橋渡しであると言われるケースが多いです。デザイナーとディレクターは同一の組織にいるか、案件をクライアントから請けたディレクターがデザイナーを引っ張ってくるパターンが多いのではないでしょうか。
しかし、この関係性は上下関係になりやすく「デザイナーの創造性」と「クライアントの想い」の掛け算が機能しないケースも多々あると感じています。
場合によっては打ち合わせの場にデザイナーが出てこずディレクターとクライアントで対話したモノをデザイナーにディレクターが伝えるかたちになることも多いです。この進め方にメリットもあるのですがデメリットも当然あり、ディレクターが単なる伝言板になってしまったり、あるいはデザイナーが言われた指示だけをこなすオペレーターになってしまうこともあります。
そもそも「クライアント↔︎ディレクター」であっても「ディレクター↔︎デザイナー」であっても、あるいは「発注者↔︎受注者」であったとしても、二者間の対話は対立を乗り越えるのが非常に難しいケースが多いです。
この関係性は対立軸が生じると、①どちらかの妥協を招く、②足して割って中途半端になる、③喧嘩が行き過ぎて収集がつかなくなる、この3パターンに陥ることが多いと感じています。
「同じ未来を目指せば対立を乗り越えて創造的になれる」と思いきや、あとから振り返ると妥協が間に入っていることも多い。コレでは良いクリエイティブも生み出せません。
だから、クライアント、デザイナー、ディレクターの三角形なのです。この三角形はどこが頂点でもありません。互いに異なるモノを持ち寄って、まぜこぜする中で創造を生み出す関係性です。
このときディレクターはクライアントの「想い」とデザイナーの「創造性」を俯瞰して見つめながら、その両者を重ね合わせることで見えてくる「新しい世界」を提示する役割を持ちます。
決して間を取るわけでもなく、どちらかに擦り寄るわけでもなく、その両方を重ねるから見えてくる世界に“気づく”&“提示する”チカラが必要になってきます。
これらは「整理するチカラ」×「発想するチカラ」の掛け合わせと言えそうですね。
整理するチカラは先に挙げたような構図化や物語化です。発想するチカラはデザイナーの創造性とは異なります。2つの世界を重ねた先に違う世界を見るチカラ、「弁証法」という思考での止揚(アウフヘーベン)を導き、ジンテーゼへと至るチカラとも言い換えることができるでしょう。
(弁証法については「直線は最短か?」という書籍がとてもわかりやすいです。)
そもそもこのスタンスだと「ディレクター」って言葉自体が適切じゃないかもしれません。だってディレクションしているワケじゃないですからね。見えているゴールに向けて誘導しているわけでなく、現在の延長線上にはない世界へのジャンプを生み出そうとするわけですから。
一言では表現できませんが「ジンテーゼの仲介者」とか「止揚ファシリテーター」とか「創発コーディネーター」とか言えるのかもですね。
いま、また違う角度から「アート思考×デザイン思考を同時に巻き起こす」を考察しているところですが、このテーマとも繋がってくる方法論だなぁと感じています。ココは改めて別のポストで紹介しますね。
そんな「三角形クリエイティブ」
これから先に広がっていったら面白いですね。
06.デザインとディレクションとアレとコレとソレと
と、デザインとディレクションについて自分の感じていることをザーッと書き連ねてみました。
実は、自分自身デザインまでやってしまうこともあります。チラシやパンフのデザインあたりを請けることも年間でソコソコあります。でも、落とし込みの技術では圧倒的に本職デザイナーには勝てません。だからできる限り自分はディレクターとして動いてデザイナーに依頼するケースが多いです。
でも、相談を受ける案件を見てみると本職のはずのデザイナーが作っているはずなのに、自分の方が良いモノを作ってしまえるケースも現実にあります。それは「整理」にどう向き合っているかの違いなのかなと、そんなことも思います。これをデザイナーだけの責任だというつもりもありません、ホントはクライアント側もよくそこを考えなきゃいけない。
この、「整理」がよく分かってくるとイイ仕事ができるようになってくる。発注側であれ受注側であれ、どちらの立場であったとしても「構図化」と「物語化」を意識しはじめると、きっとクリエイティビティが育っていく、そんなコトを感じます。もちろん自分もまだまだ伸ばせるし、まだまだ至らないから、ガツガツとした修行の日々です。
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