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論文紹介 指揮統制システムが第三次中東戦争でのイスラエル軍の優位を支えた

1967年に勃発した第三次中東戦争はイスラエルが数的に劣勢であるにもかかわらず、作戦、戦術の運用で優位に立てることを示した出来事でした。この事例はさまざまな研究で分析の対象になりましたが、Horowitz(1970)は、行政学の立場で軍隊の指揮統制が軍事力の有効性を高めることを論じています。

Horowitz, D. (1970). Flexible responsiveness and military strategy: The case of the Israeli army. Policy Sciences, 1(1), 191–205. doi:10.1007/bf00145205

イスラエル軍は1948年の第一次中東戦争以来、アラブ諸国の戦力に対して絶えず戦力規模の面で劣勢に立たされていることを課題として認識してきました。この不利に対応するためイスラエル軍は装備の調達や戦術の開発に取り組んできましたが、その過程で指揮統制システムの効率化にも取り組んできました。一般に指揮統制システムとは、指揮官が指揮下部隊に対して指揮統制を行うために必要な装備や手順を組み合わせたシステムのことをいいますが、著者はこれには複数の類型があると述べています。

「(a)予測パターン:このパターンの場合、敵の予想される動きに対抗するための計画を順守することに強い重点が置かれる。その有効性は、敵の動きの予測可能性と、事前に立案した計画に基づいて、敵の動きを阻止し、作戦を続行させる十分な戦力を使用できるかどうかにかかっている。
(b)中央集権パターン:このパターンは、中央の司令部が部隊を厳格に統制することに依拠している。このパターンによる対応の有効性は、利用可能な通信手段の効率にかなりの程度で左右されることになる。この場合、軍事組織にサービスを提供する通信ネットワークは、時間と情報の損失を最小限度に抑制しつつ、上級部隊と下級部隊との間の双方向の継続的な通信のフローを提供しなければならない。しかし、通信ネットワークの性能が可能な限り完璧に近いと想定したとしても、主として口頭で伝達されるメッセージの情報が、厳格な統制のパターンに依拠した中央集権システムの効果的な機能を確保するのに十分であるかどうかは疑問の余地がある」

(195)

著者はこうした部下の行動を縛るタイプの指揮統制のパターンとは異なる三つ目の類型として即時対応のパターンを挙げています。これがイスラエル軍の指揮統制システムの基礎となっています。

(c)即時対応(Response-on-the-Spot)パターン:このパターンは、計画を順守することよりも、むしろ目的を維持することに依拠している。各単位部隊は、与えられた目的の範囲でかなりの裁量的な判断が可能である。組織の各部隊は必要に応じて主体的に目標達成を追求するフィードバック・メカニズムによく類似した方法で行動することが期待される。生の情報を即座に活用することに依拠することで、中央集権の指揮パターンで避けられない時間と情報の損失を回避できる。即時対応パターンの有効性は、指揮をとる立場にあるすべての人間の能力と信頼に左右される。このパターンを実行するには、全階級に技能、主動、臨機応変、強靭性が要求されるため、質の高い人材を多く持つ軍隊だけが、この方式によって運用するだけの余裕を持っている」

(Ibid.: 195)

1960年にイスラエル軍の参謀総長ハイム・ラスコフは1956年に経験した第二次中東戦争でエジプト軍と交戦したことを振り返り、ひとたび戦闘部隊が敵と接触すれば、迅速な行動のために編成の変更が可能な組織であるべきだと述べており、「このような場合には、固定された組織のパターンに従うのではなく、柔軟な変更が可能なパターンをあらかじめ用意しておくことが望ましい」と述べました(Ibid.: 196)。同年にラスコフとよく似た見解を元参謀総長のモーシェ・ダヤンも述べています。

「エジプト軍の作戦は計画的であり、その司令部は前線から遠く離れた後方にある。新たな防御線の構成、攻撃目標の変更、当初の計画とは異なる部隊の移動など、部隊の配置を変更するために時間がかかる。これは考えるための時間、あらゆる指揮系統に沿って報告を受けるまでの時間、最高司令部が十分な検討を加えた上で決心する時間、命令が後方から前線に伝わってくる時間などである。これに対して我々は非常に柔軟に行動することに慣れている。我々は相互に依存しない部隊を基礎としているので、その部隊の指揮官が報告を受け、必要な命令を下し、戦闘員と共に現場にいることができる。この利点を生かすことができれば、最初の突破口を形成した後、エジプト軍が前線の変化に対応する前に前進することができる。(中略)我々は主要な軍事目標ごとに別々の部隊を編成し、それぞれの部隊が一度の連続的な戦闘でそこに到達する。そこで長く息を吸い込み、また目標に到達するまで推し進め、戦い、そして押し進めるのである」

(Ibid.: 197)

このような即時対応の指揮統制に基づく部隊行動の速さで優位に立つことを追求してきたことにより、イスラエルは第三次中東戦争で質的優位を獲得することが可能になったと著者は評価しています。著者はリデル・ハートの評論も引用し、当時のイスラエル軍の戦略が迅速に決定的勝利を収める上で機動的に戦力を運用したことを示しています。ちなみに、著者はイスラエルの軍事的成功に関するリデル・ハートの見解に批判を加えており、この勝利は彼が主張するような間接アプローチに基づく機動的な運用の効果だけではなかったと主張しています。むしろ、イスラエルが主動的な地位を維持できたのは、即時対応の指揮統制で各部隊の意思決定が迅速だったことが重要だとしています(Ibid.: 201)。

第三次中東戦争が始まった6月5日にイスラエル・タルの機甲師団はシナイ半島でエジプトの防御線を突破することに成功しましたが、24時間で到達するはずの目標に10時間で到達しました。これは計画外の速さであり、指揮下部隊は事前に立案した作戦計画の通りに行動することを中断し、それぞれが即時対応で部隊を運用しました(Ibid.: 202)。著者は「このような戦場における突発的な状況への対応のパターンは、第三次中東戦争を通じて何度も繰り返された」と述べています(Ibid.: 203)。

イスラエルの事例分析で軍隊の指揮統制のメカニズムが部隊の戦闘効率に与える影響を論じる研究は次第に増加しましたが、後にクレフェルトも古典的業績である『戦争における指揮(Command in War)』(1987)でこの論文を参照しています。ただ、行政学ではなく軍事学の立場で、即時対応というメカニズムはイスラエルの独創だったわけではないことも指摘しておかなければなりません。

このような指揮統制の原型となったのは19世紀のプロイセンで参謀総長を務めたヘルムート・フォン・モルトケが確立した訓令戦術であり、これによって上級部隊の意図や構想に基づき、各部隊の指揮官が柔軟かつ迅速に即時対応できるようになりました。著者は作戦術や戦術の発達の歴史に言及しておらず、また即時対応の成功には長期にわたる専門的な教育投資が必要であることも十分に考慮していないと思います。そのため、その分析の深さに一定の限界があることは事実ですが、クレフェルトの業績が出る前から指揮統制システムが戦場における組織行動の効率を左右することに対して研究者の注意を向けさせたことは有意義だったと思います。

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