論文紹介 国外に移住した中国人のコミュニティは中国企業の投資を引き寄せる
中国は1999年以降に走出去(Go Global)戦略に基づき、中国企業の海外進出を後押ししてきました。しかし、海外への事業展開は簡単なことではありません。まず、どこに投資すべきかを判断するための情報を収集しなければならず、また事業を軌道に乗せるためには人材の確保が必要です。
これらの問題を解決する上で大いに役立ったのが移住した中国人のコミュニティであったと研究者は考えています。特に現地で法人を立ち上げるグリーンフィールド投資においては、外国で暮らす中国人のネットワークがどれほどの規模であるかが重要だったことが調査研究で明らかにされています。
中国企業が事業を国際展開する際に、投資先の中国人ネットワークを活用していることは研究者の間でよく知られています。このような民族的なネットワークでは、現地の社会、文化に関する詳細な情報、知識がやり取りされており、貿易や投資で企業が現地で情報や資源を入手するための貴重なメカニズムとされています。
著者らはこのメカニズムの効果を明らかにするために、ヨーロッパでの中国企業の投資に注目し、中国人のコミュニティが存在することがどれほど対外直接投資を促進しているのかを分析しました。
ヨーロッパでは以前から中国人のコミュニティが形成されてきましたが、その規模は国によって大きなばらつきがあり、経済状況も多種多様です。著者らは26カ国のヨーロッパを対象として、中国企業による577件の対外直接投資を分析しました。経済状況の違いも考慮し、統計的モデルを用いた定量的分析を行っています。
その分析の結果によると、ヨーロッパにおける中国人の移民コミュニティの規模が大きくなるほど、中国企業が投資を行う確率は高くなることが認められました。中国企業は現地に根差したネットワークを利用し、そこから情報や人的資本を調達しています。ただし、分析結果は古い世代の中国人コミュニティよりも新しい世代の中国人コミュニティの方が中国企業の対外直接投資の誘致に寄与していることも示しています。これは、すでに現地社会に深く入り込んでいるコミュニティは中国企業との結びつきが乏しいためであると説明されています。
また、中国人コミュニティの教育の程度が高いほど、対外直接投資を誘致しやすくなる関係も部分的に確認することができると報告されています。つまり、単に中国人のコミュニティが存在するだけでは投資を誘致する効果は見込めません。中国企業は教育程度の高い人的資本を必要とする事業を展開しようとする傾向があるため、その事業に必要な人材を現地で確保できない場合は投資を見合わせているとも考えられます。
短期間のうちに中国が対外直接投資を増やすことに成功した要因はこれだけではありませんが、世界各地に移民を送り出せる人口を持つことが、企業の海外展開を促進していたことは、国家戦略の観点から見ても興味深いことだと思います。