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年末年始帰省したときの日記

「○○大学だってさ」
 今回の帰省で一番言ったのが、認知症が始まっている父に向けたこれだった。

 高校3年生の娘が受験を控えているので、今回の帰省は一人で行った。僕の実家は愛知県半田市。父と母が二人で住んでいる。
 父は自営業を辞めた一昨年ごろから物忘れがひどくなり、同じ質問を繰り返すようになった。
「○○ちゃん(娘)はどこの大学を受けるの?」
今回の帰省でのメイン質問はこれ。

「第一志望は○○大学だってさ。他には○○や○○も受けるって。共通テストってのが1月にあって、本番は2月だってさ」「そうか、いい大学だねえ」
5分後。
「で、○○ちゃんはどこの大学を受けるの?」
この繰り返しだった。

 何度目かからは面倒になって聞かれた質問にだけ答えるようになった。
「○○大学だってさ」「そうか、いい大学だねえ」
 昔の記憶ははっきりしているし、思考が澱んでいる様子もない。ただ直近のことだけが覚えられない。

「最近の調子はどう?」と尋ねた時はこう言った。
「身体は全然元気。元気じゃないのは頭だけ」
記憶力が衰えた自覚がある発言に心が傷んだ。(ちなみに母に聞くところ身体もそんなに元気じゃないらしいが)。
 できるだけ丁寧に接しようと心掛け、根気よく質問に答え、それが十回を数えようとしたころだった。

「第一志望は○○大学なんだよね?」

 ついに覚えた。そんなパターンもあるのか。もちろん一進一退なんだろうけど、一進する可能性があるのとないのでは大違いだ。

「○○大学に受かるようにお参りに行こうかなぁ」
 今度は何度もそう言った父に、帰り際、娘の志望校と日程を書いたメモを渡した。
父は「お参りの時に忘れないように」と言い、嬉しそうにメモを財布にしまった。

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