コングロマリット企業は衰退するのか?(感想:『GE帝国盛衰史』)

 『GE帝国盛衰史』を読んだ。
 GEことGeneral Electric社は、発明王エジソンを祖とし、ビジネススクールでも良く取り上げられる大経営者ジャック・ウェルチ氏で知られるコングロマリット企業だ。1989年時点で、時価総額世界12位。堂々たる世界最高の企業の1つと言えただろう。
 当時は。
 22年時点の世界時価総額ランキングにはGEの名前は記載されていない。それどころか、現在はGEはヘルスケア部門を売却し、残った部門を3社に分割すべく進めている。
 なぜ、これほどまでに凋落したのか? そこを500頁弱で詳細に記したのが本書だ。

 500頁弱で語られる衰退の背景は、もちろん単純なものではない。様々な事業、管理体制、経営者、M&Aの失敗など、複数の理由が絡み合っている。
個人的に、特に印象に残ったのは下記の2点だった。

1、多角化による「数十年に一度のリスク」の発現
 リーマンショックの影響をGEキャピタルが大幅に喰らった。社長肝入りのM&Aで高値掴みをした挙句、独禁法の影響でドル箱事業を手放さざるを得なかった。この2点は本書でも強調される失敗だ。
 思ったのはこんなことだった。数十年に1度のリスクは、字義通りに捉えるなら数十年に1度しか起こらない。だが、数十の事業を抱えていれば? リスクが高いM&Aを頻繁に実施していたら?
 つまり、コングロマリット化し、更にそれをM&Aで絞込あるいは拡大させるスタイルは、手を広げている分大きなリスクに当たる可能性が高い。

2、目標必達主義による管理会計の骨抜き
 上記を助長させていたのが、目標必達主義だ。一度掲げた利益目標を下げることは許されない。では、実際に達成できない場合は?
 うまく帳簿の帳尻を合わせるしかない。
 そして、GEは事業レベルでも、全社レベルでも「違法ではないが不適切な」会計処理を続けた。そして、最後はCEOであっても、すぐには実態を掴めないレベルになってしまった。
 だが、これもコングロマリット化の弊害と言える部分もあると思う。例えば、単一事業だけを行うたたき上げの社長が、その事業の細部まで分かっていないという事はあり得るだろうか? おそらくないだろう。ユニクロでも、ウォルマートでも、事業が一つであれば社長はその細部まで理解している。だが、事業が増えていくとそれは難しくなり、GEのように幅広い事業群を持つ場合、それはほとんど不可能になっていくだろう。
 事業に肌触りを持てない以上、財務値に頼らなければ現状が全く把握できなくなる。

 多分、日本のビジネスマンが読むと、このGEの衰退の歴史はとても既視感があるものだと思う。
 東芝に似ているのだ、とても。
 利益必達文化、数十年に一度の地震の影響を受けた原子力発電事業リスクの発現。

 そして、改めて、1989年の世界時価総額ランキングを見て思う。
 日米問わずトップ30に入る製造業のうち、3つが分社化の議論の中にいる。GE、東芝、それにDuPont。どれも一時期はエクセレントカンパニーと呼ばれた企業が、同じような潮流の中にいる。

 この『GE帝国盛衰史』は、GEだけの話なのか。
 あるいは現代のコングロマリット企業に普遍的に通じる盛衰史論なのか。

 どうしてもそんなことを考えてしまう。


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竹林秋人
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。とても嬉しいです 頂いたサポートで本を買い、書評を書くのが夢です!