2022年1月10日
【今日は何の日?】1月10日:110番の日
何かあったら、警察へ110(ひゃくとお)番!警察へ繋がる電話番号110
を1月10日と見立てて、警察庁が記念日に制定しております。
さて本日の怪談は……
「ナンパ」
夜、新村さんが駅からの帰路を急いでいると、突然路地から出てきた女性に腕を掴まれた。強引に腕を組んだ女性に驚いて一言声を掛けようとすると出端を挫かれた。
「黙って腕を組んでいて。知り合いの振りをして」
そう小声で耳打ちすると、女性は足早に歩き出した。仕方がないので新村さんも歩調を合わせた。
追われているのか。何かしら事情があるのだろう。詳しくは事が済んでから問いただしても良いか。
そう思った途端、不意に舌打ちの音が聞こえた。
「何だよ、男連れかよぉ!」
若い男の下卑た声だ。周囲に人の気配は感じない。女性は腕を強く握りしめ、もはや痛いくらいである。その身体は小刻みに震えていた。
そのまま速度を緩めず、コンビニのあるほうへと急ぐ。
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
到着したコンビニの前で女性に頭を下げられた。
「さっきの声、聞こえましたか?」
あの若い男の声か。確認すると女性は経緯を話し始めた。
駅から歩いてくる途中、暗がりから男性に声を掛けられたのだという。
「よーよー、おねぇちゃん、一人ぃ?」
酷く痩せた柄の悪い男性である。二十歳を過ぎてまだそう経っていないだろう。
ただ男の向こう側が透けて見えた。ぞっとして、男を徹底的に無視することにした。
無視していると声が追ってきた。
「一緒に行こうよー」
「ねぇ、一人なんでしょー?」
「ねぇ、一人なんでしょー?」
「一人なんでしょー?」
しつこく繰り替えす声に、一度だけ視線を向けてしまった。
男の姿が見えた。先程と同じ姿をしているのだが、着ている服は所々裂けて赤く染まっている。頭部も血まみれ。一部が陥没しているようだ。バイク事故か何かだろうか。
その惨状に思わず顔を背けた。彼女のその反応に、声はからかうように言った。
「俺のこと見えてるんでしょー? 一緒に行こうよー。一人なんでしょー?」
そのときにスーツ姿の男性が通り掛かったので、思わず腕にしがみついて助けを求めたのだという。
都内中央線沿線での出来事である。
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「ナンパ」神沼三平太『恐怖箱 百眼』