2021年12月31日
【今日は何の日?】12月31日:大晦日
一年の最後の日。
月末のことを、晦日(みそか)、晦(つごもり)と言います。なかでも12月は一年の最後となる月末なので大晦日(おおみそか)大晦日(おおつごもり)と呼ばれております。
さて、今日の一話は?
「べニヤ板」
神田さんはワンルームマンションを借りるために、不動産屋と内見に回っていた。
角部屋の一室に案内され、その部屋の条件を聞いて驚いた。家賃が相場の半額である。
部屋に入ると、不動産屋がカーテンの引かれた窓の側に立ったまま動かない。
「あ、そこ退いてもらっても良いですか?」
「いや、ただカーテンがあるだけですから気にしないでください」
何度も言うと渋々退いた。カーテンの奥を確認すると窓をベニヤ板で塞いである。
「これ、板を外さなかったら大丈夫なんで」
へらへらと笑いながら不動産屋は言った。
「何か理由があるんですか?」
「この窓から覗かれるとの話がありまして、念のために塞がせてもらっているんですよ」
これさえ外さなければ大丈夫ですからと不動産屋は念を押すように繰り返した。
事故物件ではないと断言するが、同じ建物の並びの部屋の半額である。
結局疑問を持ちながらも神田さんはその部屋を契約した。実際に住み始めてみると特に変な事が起きたりもしなかった。少し日の入りが悪いかなと思う程度である。誰かが覗くと不動産屋は言ったが、四階の角部屋。外は駐車場である。覗ける訳もない。
そうなると気になってきた。思い切って打ち付けられた板を外してしまった。
外したところで何も変わらなかった。部屋が明るくなって気持ちが良いほどである。
だが夜になるとカーテンの隙間から何かがちらちらと室内を覗いているような気がした。
カーテンの向こうのガラスに、ぼんやりとしたものが映っている。
気のせいだろうと近寄っていき、思い切りカーテンを開いた。
窓に沢山の人間の顔が貼り付いていた。目を閉じて表情が失われた顔である。デスマスクのような印象であった。神田さんが驚いてのけぞると、そのデスマスクの目が一斉に開いて、神田さんのことを見つめた。
大声を上げると、追い打ちを掛けるように、その窓を掌で叩くような音が響いてきた。
その音は日が昇るまでの間、途切れずに続いた。
翌朝、音が止まるとすぐに板を打ち付けた。
夜になったが、ベニヤ板の上には顔は現れない。音もしない。元通りだ。
神田さんは大学に在学している間、ずっとその部屋に住み続けていた。
ベニヤ板を打ち付けて以降、一切何も起きなかった。不動産屋の言う通りだった。
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「ベニヤ板」神沼三平太『恐怖箱 百眼』