怪談師としてYouTube・イベント等で活躍中の牛抱せん夏・新シリーズ『百怪語り 冥途の花嫁』著者コメント+自選1話試し読み
人気怪談師・牛抱せん夏による、体験者の実在する恐ろしい怪奇譚100話
あらすじ・内容
真夜中、クローゼットから這い出たおんなが耳元で囁く「――見た?」
現代怪談から古典怪談まで、怪談師として語りで活躍している牛抱せん夏の新シリーズ。
・キャンプ先で出会った家族は…「ソロキャンプ」
・心霊スポットで出会った異形「鎮座」
・恐山の夜の異変「入ってきたバス」
・著者が体験した怪異「運転免許」
・その家で便所が外にある理由「外便所」
・勤務のために泊まった部屋、開けないでと言われていたけれど…「押し入れ」
・姉の家に泊まりに行くと息子が“こわい”と夜中に泣き出し…「冥途の花嫁」
――など一年余りの歳月をかけ様々な方にインタビューをしてまとめ上げたヒヤリ、ゾクリとする100話+語り8話の怪談を収録。
著者コメント
試し読み1話
留守番
賢司さんが小学三年生の頃のことだ。
学校から帰ってくると、両親も姉もまだ家にいなかった。
ともだちと遊びに出かけて帰ってきたら、中学生の姉はいたのだが、両親の姿はない。
晩ご飯の時間になっても帰ってくる気配はなかった。
姉が簡単な食事を作ってくれたので、ちゃぶ台で向かい合せになって食べ始めた。
どうやら父の弟である叔父がいなくなったらしい。両親が捜しに行っているという。
姉は恐らくなにか事情を知っているのだろう。賢司さんは幼心になんとなく聞いてはいけないような気がして、黙ってご飯をかきこんだ。
食事を終えてからも両親は帰ってこない。
テレビを観ていると、網戸の向こうに叔父がひょっこり現れた。
ふたりは慌てて窓辺に駆け寄ると、
「叔父ちゃん、どこに行ってたの?」
「みんな捜しに行ってるよ」
矢継ぎ早に声をかけた。
「中、入りなよ」
手招きをすると電話が鳴った。姉が受話器を取る。
「もしもし。叔父ちゃんなら、今ここに来てるよ」
かけてきたのは父親のようだ。
姉は受話器を置くと、首を傾げて電話の内容を賢司さんにも伝えた。叔父の遺体を発見したという。しかし、叔父は今こうして目の前にいる。なにかの間違いだろう。網戸の外に向かって、
「叔父ちゃん、変な電話がかかってきたよ」
そう言うと叔父は「ごめんな」と涙を一筋流し、その場で消えた。
叔父は近所の山林に停めた車中で排ガス自殺を図った。発見時には既に死んでいた。
大人になってから知ったことだが、父が叔父の妻と不倫関係にあったらしい。
叔父は実の兄を恨んで現れたのではなく、幼い甥っ子と姪っ子を心配して顔を見せに来たのだった。
―了―
◎著者紹介
牛抱せん夏 (うしだき・せんか)
怪談師。現代怪談、古典怪談、こども向けのお話会まで幅広い演目を披露する。
著書に『千葉怪談』『実話怪談 呪紋』『実話怪談 幽廓』『呪女怪談』『呪女怪談 滅魂』、共著に「現代怪談 地獄めぐり」シリーズなど。