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怪談師としてYouTube・イベント等で活躍中の牛抱せん夏・新シリーズ『百怪語り 冥途の花嫁』著者コメント+自選1話試し読み

人気怪談師・牛抱せん夏による、体験者の実在する恐ろしい怪奇譚100話

あらすじ・内容

真夜中、クローゼットから這い出たおんなが耳元で囁く「――見た?」

現代怪談から古典怪談まで、怪談師として語りで活躍している牛抱せん夏の新シリーズ。
・キャンプ先で出会った家族は…「ソロキャンプ
・心霊スポットで出会った異形「鎮座
・恐山の夜の異変「入ってきたバス
・著者が体験した怪異「運転免許
・その家で便所が外にある理由「外便所
・勤務のために泊まった部屋、開けないでと言われていたけれど…「押し入れ
・姉の家に泊まりに行くと息子が“こわい”と夜中に泣き出し…「冥途の花嫁
――など一年余りの歳月をかけ様々な方にインタビューをしてまとめ上げたヒヤリ、ゾクリとする100話+語り8話の怪談を収録。

著者コメント

 ようこそお越しくださいました。この世の裏側へ。
 この度「百怪語り 冥途の花嫁」を刊行するにあたり、一年をかけて百名以上の方々に怪異体験談をインタビューしてまいりました。
 お住まいの地域や年齢層、職業もばらばら。
 体験者様のお人柄や言葉遣い等を把握するために、メールやお手紙ではなく、すべて直接の対面か、お電話にてお話を伺わせていただきました。
 体験談を蒐集しだして十三年目になりますが、未だに自分では想像のできない不思議な世界があるのだと思い知らされ、そのできごとを誰かにお伝えしたくなるのです。
 自分とはまったく関係のない世界なのではなく、ひょっとしたらこの後すぐにでも体験してしまうかもしれないというところが、実話怪談の魅力なのではないでしょうか。
 本書では、百話の体験談を八つのカテゴリに分類しました。
 狐狸をはじめとする妖怪にまつわる話を「妖」
 旅行や宿泊先での体験話を「旅」
 自動車、原動機付自転車、軽車両等乗り物にまつわる話を「車」
 働くひと、職場にまつわる話を「職」
 疾病状態で体験した話を「病」
 夫婦、親子、兄弟等の血縁者または同様のつながりのある身内にまつわる話を「家族」
 恋愛対象者や親族、友人、動物等への愛情にまつわる話を「愛」
 その他の話を「世間」といたします。
 それではこれより、百怪語りをはじめさせていただきます──

本書「まえがき」より全文抜粋

試し読み1話

留守番

 賢司さんが小学三年生の頃のことだ。
 学校から帰ってくると、両親も姉もまだ家にいなかった。
 ともだちと遊びに出かけて帰ってきたら、中学生の姉はいたのだが、両親の姿はない。
 晩ご飯の時間になっても帰ってくる気配はなかった。
 姉が簡単な食事を作ってくれたので、ちゃぶ台で向かい合せになって食べ始めた。
 どうやら父の弟である叔父がいなくなったらしい。両親が捜しに行っているという。
 姉は恐らくなにか事情を知っているのだろう。賢司さんは幼心になんとなく聞いてはいけないような気がして、黙ってご飯をかきこんだ。
 食事を終えてからも両親は帰ってこない。
 テレビを観ていると、網戸の向こうに叔父がひょっこり現れた。
 ふたりは慌てて窓辺に駆け寄ると、
「叔父ちゃん、どこに行ってたの?」
「みんな捜しに行ってるよ」
 矢継ぎ早に声をかけた。
「中、入りなよ」
 手招きをすると電話が鳴った。姉が受話器を取る。
「もしもし。叔父ちゃんなら、今ここに来てるよ」
 かけてきたのは父親のようだ。
 姉は受話器を置くと、首を傾げて電話の内容を賢司さんにも伝えた。叔父の遺体を発見したという。しかし、叔父は今こうして目の前にいる。なにかの間違いだろう。網戸の外に向かって、
「叔父ちゃん、変な電話がかかってきたよ」
 そう言うと叔父は「ごめんな」と涙を一筋流し、その場で消えた。

 叔父は近所の山林に停めた車中で排ガス自殺を図った。発見時には既に死んでいた。
 大人になってから知ったことだが、父が叔父の妻と不倫関係にあったらしい。
 叔父は実の兄を恨んで現れたのではなく、幼い甥っ子と姪っ子を心配して顔を見せに来たのだった。

―了―

◎著者紹介

牛抱せん夏 (うしだき・せんか)

怪談師。現代怪談、古典怪談、こども向けのお話会まで幅広い演目を披露する。
著書に『千葉怪談』『実話怪談 呪紋』『実話怪談 幽廓』『呪女怪談』『呪女怪談 滅魂』、共著に「現代怪談 地獄めぐり」シリーズなど。

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