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2021年10月27日

1日1話、実話怪談お届け中!
【今日は何の日?】10月27日:文字・活字文化の日

10月27日は「読書週間」の第1日目。あわせて、2005(平成17)年10月27日に「文字・活字文化振興法」が成立したことにちなんで制定された記念日です。知識や知恵、ひいては健全な民主主義の発達にも欠かすことの出来ない文字や活字を大事にしていこうという日です。

さて、今日の一話は?

「行李」

 町内会の集まりが流れて飲み会になった。
 四郎さんの隣家の屋敷に住む町内会長は、この辺りでは古株になる。
 酒が入って舌の動きも滑らかになったところで、最近古美術品に凝っている四郎さんが話を振った。
「会長んところは家も古いし、何かお宝が埋もれてんじゃねえの?」
 会長は首を振った。
「いやあ、ワシんところはただ古いだけで、とりたてて金目のもんはないねえ」
 そんなことはあるまい、当人が価値を知らんだけで先祖伝来の大したもんを隠してんじゃないか、と酔った四郎さんがなおも絡む。
 会長は薄い頭を撫でて言った。
「お宝ってほどのもんじゃないと思うんだが、先祖伝来のもんならあるよ」
 もしかしたら凄いものかもしれない、見にいこう見にいこう、と相成った。
 会長の屋敷には、ちょっとした蔵があった。
「なあに、ガラクタばかりさ」
 そう言いながら錆びた錠前を開けると、会長は中から行李をひとつ運び出してきた。
 差し渡し三尺ばかり。
 一見してごくありふれた普通の行李に見えるが、さすがに時代の味が付いている。
 見ると、行李の四方に紙片が貼り付けてある。
 紙は古びて汚れ、文字は達筆すぎて読めない。
 四郎さんは得も言われぬ胸騒ぎがした。
「……なんだいこりゃ。お札かい?」
「わからん」
 座敷の畳の上に置かれた行李をしげしげと眺め、会長に尋ねる。
「中身はなんだい?」
「わからん。ワシは見てないからなんとも」
 四郎さんは、ちょっとがっかりした。
「なんだ、わからんのか。開けてみるか?」
「やめとけ。ここ何代か、誰も開けてないんだ。ただ、ワシの親父がジジイから聞いた話じゃ、なんでも刀が入ってるらしい」
 ――ガチャリ。
 会長が、〈刀〉と言った途端、行李の中から音が聞こえた。
 日本刀を床に放りだすような、重い金属音だ。
 行李は座敷に置かれたまま、誰も手を触れていない。
「……おい、今の」
 驚いていると、行李は小刻みに震え、次いで行李の中で何かが跳ね回っているかのように激しく揺れ始めた。
 恐ろしくなった四郎さんは、挨拶もそこそこに逃げ帰った。

――「行李」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より

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