怪奇事件を占いで読み解く「幽木武彦の算命学で怪を斬る!」~カニバリストの底知れぬ闇、パリ人肉事件(後編)
算命学とは、古代中国で生まれ、王家秘伝の軍略として伝承されてきた占術。恐ろしいほどの的中率をもつその占いは、生年月日から導く命式で霊感の有無、時には寿命までわかってしまうという。
本企画は、算命学の占い師・幽木武彦が怪奇な事件・事象・人物を宿命という観点から読み解いていこうという試みである。
さて、お待たせいたしました!40年前にただならぬ衝撃を走らせたあのカニバリズム事件の後編が登場です。前編はこちら。
カニバリストの彼が生まれながらに持っていた宿命、そして事件当時の運勢とは!?
序
新年あけましておめでとうございます。
「パリ人肉事件」の連載中に新年のご挨拶をすることになるとは思わなかったが、これも奇縁、なのだろう。
怪異な事件や犯罪、歴史に名を残すアウトローたちの宿命と運勢を「算命学」という占いフィルターを通じて検証しようとする「幽木武彦の算命学で怪を斬る!」。
本年も引きつづき、さまざまな怪事件、犯罪者や有名人物にスポットを当て、みなさんを底知れぬ不気味なダークワールドへとお連れしたいと思っている。
本年もご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。
さて。
ということで、佐川一政の後編である。
稀代のカニバリスト、佐川が「食局」という一風変わった宿命であることは前編でご紹介した。
その際ちらっとお話ししたとおり、佐川は食局以外にも、算命学的に言うと「すごい宿命」をあれもこれもと持っている。
なによりも彼は、激レアもいいところの「完全格」の命式だ。
完全格(従生格)
これが佐川の宿命6干支。
生年月日を干支に変換したもので、右から年干支、月干支、日干支。狭義では、佐川自身は日干「丙」と考える。
そして、これらの干支を五行(木火土金水)に変換すると……
なんと佐川の命式は、自分自身である日干(火性)以外はすべてが土性になる。つまり日干の火性が「火生土」とほかのすべてを生みだしている。
火生土。
すなわち「土は火が燃え、なにかを灰にすることで生まれる」という感じだろうか。ちなみに五行は、
と、すべて連鎖している。この関係を「相生」という。
そして佐川のような命式(=日干以外すべて同じ五行になり、日干がそれらを生じる)は「従生格」と呼ばれている。
これは、そうある命式ではない。
しかも、Aという天干とBという天干、あるいはCという地支とDという地支がくっついて土性に変わり、結果として「従生格」に入格したというわけではなく、もともとの状態ですんなり「従生格」になるというのは、さらにレアである。
このように、かなり特徴の際立った命式が算命学にはいくつかある。
具体的には、
これらを「完全格」と呼び、他の宿命と区別している。
俗に言う「格が違う」というやつである。
こうした完全格は、もちろんそれぞれ特徴が違う。
だが基本的なことを言えば、どれもみな一般的な命式とはけた違いにスケールが大きく、運勢が強い(中でも特に強いのは「一気格」)。
たとえば佐川の「従生格」も、完全格ではない宿命と比べたら数十倍、あるいは数百倍もの運勢の強さを持つと言われている。
その人次第では大成功を収められる、とてもラッキーな命式だ。
世の中で活躍している著名な人々の中には、こうした完全格の命式、あるいは完全格に準ずる一点破格の命式を持つ人が少なくない。
佐川はこんな恵まれた宿命を持っていた。
もちろん命式は、あくまでも「種」に過ぎない。それがどう発芽し、どう枝葉を広げていくかは両親との関係性をはじめとした「環境」によるところが大きい。
いい命式を持っているからと言って、必ずしも100人が100人、よい方向に運が向かっていくとはかぎらない。
だが、彼がもしもどこかで違う方向に歩みを進めていたならば、私たちは現在とはまったく違った形で「佐川一政」という人物と出逢っていたかも知れないのである。
そんな深い奥行きというか、もったいなさを感じさせるのが佐川の命式だ。
ただ、算命学はこうも言う。
――完全格の犯罪は、大犯罪。
佐川は自らの人生で、それを実証することになったのである。
ちなみに、佐川の命式の特徴はほかにもある。
だがあまり、あれもこれもと説明しすぎても、かえって要点がぼやけてしまう。
まずは「食局」、そして「従生格」であるということだけ把握してもらえれば、彼の宿命(命式、人体図)のスケール感は理解していただけるはずである。
1981年の佐川一政
最後にご紹介したいのは、パリ人肉事件が発生した「1981年6月11日」――正確には「1981年」の佐川の運勢である。
いつものように、宿命6干支に10年に一度変わる「大運干支」(1981年の佐川は、1977年からはじまった「乙丑」という大運を通過中)と、1981年の「年運干支」(万人共通)である「辛酉」を加えた「五柱法」で見る。
上にも書いたが、佐川自身は日干「丙」。
そうすると、1981年に回ってきた「辛」という十干は、佐川にとっては「伴侶」を意味する(丙辛干合)。
そう。
この年の佐川には、伴侶の干が回ってきていたのである。
こういうときは、誰しも心に波風が立ちやすい。ありていな言い方をお許しいただくなら、恋というものが狂おしいまでにしたくなる運気であり、異性の温もりが恋しくてしかたがなくなるバイオリズム。
そんな運勢の妙味も相まって、こういうときには実際にいい相手と出逢いやすい。
学生としてパリで暮らしていた佐川にも、それまで以上に異国の美女たちへの恋心、渇望といったものが高まったとしても不思議ではない運勢だった。
ところが。
同時にこの年、佐川の運勢には病気の暗示も発生している。
佐川の日支「戌」に、この年回ってきた「酉」(1981年は酉年)がくっつくことで生まれる「酉戌の害」。
「害」は算命学で「病占」としても用いられる散法。
「酉戌の害」が発生するときは、人生の行程においてなんらかの「大きな変化が発生する時期」と見ることもできる。
そういう意味では、とても不気味なサインがこの年の佐川には出ていたことになる。
同時に「酉戌の害」が発生したときには、自律神経失調症、ノイローゼなどにかかりやすいと言われており、また人によっては「異常性格者的気質」も出てきやすい。そんな運気だと考えられる。
伴侶の十干「辛」が回り、いつも以上に人恋しくなっただろうその年に、同時に佐川の運勢には「酉戌の害」も回ってきていた。
そして。
事件は起きた。
もちろん、単なる偶然だろうと言われてしまえば、そこまでの話だ。
だが私は、いつものようになんとも言えない薄気味悪さを感じたまま、今回も紹介を終えることになる。
「何でやの、おかあちゃんがこれだけいっちゃんのことを思っているのに、何で分かってくれんのよ」
佐川に裏切られるようなことが起きると、彼の母親はいつもそう言って嘆いたそうである。実弟の純氏によれば、母親はいつも佐川に対し、十二分の愛情を注ぎつづけた。
「ウソやって言って、ねぇ」
愛していた息子が遠い異国でとんでもない事件を起こしたと聞いた母親は、何度もくり返しそう言いつづけた。
自分の妻を守りたい父親の頼みを聞き、純氏は母を連れ、九州に避難することにした。父親は「とにかく、おかあちゃんの手を離さないように」と純氏に頼んだ。
母親と純氏を乗せた飛行機は、よく晴れた日差しの中、富士山の真上を通過した。
すると母親は、
「きれいやねえ、富士山」
そう言って、純氏の手をギュッと握りしめた。
彼女はそのときになってもまだ、パリ人肉事件など誤報に決まっていると、自分の息子を信じていたという。
-完-
参考資料:
書籍『霧の中/佐川一政』(彩流社)
書籍『生きていてすみません/佐川一政』(北宋社)
書籍『カニバの弟/佐川純』(東京キララ社)
映画『カニバ パリ人肉事件38年目の真実/ルーシァン・キャステーヌ=テイラー&ヴェレナ・パラヴェル監督』(フランス・アメリカ合作)
著者プロフィール
幽木武彦 Takehiko Yuuki
占術家、怪異蒐集家。算命学、九星気学などを使い、広大なネットのあちこちに占い師として出没。朝から夜中まで占い漬けになりつつ、お客様など、怖い話と縁が深そうな語り部を発掘しては奇妙な怪談に耳を傾ける日々を送る。トラウマ的な恐怖体験は23歳の冬。ある朝起きたら難病患者になっており、24時間で全身が麻痺して絶命しそうになったこと。退院までに、怖い病院で一年半を費やすホラーな青春を送る。中の人、結城武彦が運営しているのは「結城武彦/幽木武彦公式サイト」。