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2021年12月1日

【今日は何の日?】12月1日:いのちの日

命を大切にしよう――自殺予防活動の一環として厚生労働省が制定した記念日。
例年12月1日からの1週間、無料の相談電話「いのちの電話」が各地域ごとに設けられ、心の悩みに応じてくれています。

「七人目」

 坂本さんが友人の柴田さんと連れ立って四国のダム湖に釣りに行ったときの話である。
 岸から釣り糸を垂らしていると、遊歩道を暫く行った所に数人の集団が立っていることに気が付いた。集団は釣りをしている坂本さん達のほうをじっと見ていた。
「あいつらさっきから何なんだよ」
 柴田さんがイライラした声を上げた。どうやら先に気付いていたらしい。
「まぁ、邪魔してくる訳でもないし、放っておけばいいじゃないか」
「気になるしよぉ。俺ちょっと話聞いてくるわ」
 柴田さんは遊歩道を駆けていった。
 見ていると、その集団に身振りも交えつつ何か言っているようだった。
 暫くして柴田さんは首を振り振り戻ってきた。
「何なんだよあいつら。じーっとこっちの顔見やがって。何話しかけても無視してっから、言ってやったんだよ。お前らのほうこそ集団で固まってこっちのほうを見やがって、失礼だってね。でも何言っても無視だよ。気持ち悪くなって帰ってきたわ」
 まだぷりぷりしている。
「結局何人いた?」
「六人だな」
「まだこっち見てるよな。確かに何か変な奴らだな」
 気持ちが悪いので、竿を畳んで今日はもう引き上げることにした。

 柴田さんが自殺したという話を坂本さんが耳にしたのは、それから二週間ほど過ぎた後になる。死因を訊くと、例のダム湖に飛び込んだのだという。
 先日釣りに行ったばかりの場所ということもあって、坂本さんにはショックだった。
 思い返してみても、柴田さんには自殺するような素振りも悩んでいる感じもなかった。
 しかし、他人に分からない悩みでもあったのかもしれない。
 別の釣り仲間とともに、弔いのためにダム湖に出かけた。
 花を手向けようとして遊歩道を歩いていると、やはり先日と同じような集団がいた。
 集団は無言のまま、こちらをじっと見つめている。
 坂本さんも気になって集団のほうに歩き出した。すれ違いざまに背筋が凍った。
 集団の中に柴田さんがいた。何も言わず、ただじっとこちらを見つめてくるだけだった。


――「七人目」神沼三平太『恐怖箱 百眼』より

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