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長野県限定、今も起きている心霊ガイドブック第2弾!『信州怪談 鬼哭編』(丸山政也)著者コメント+試し読み

体験者を取材!

長野県限定、今も起きている心霊ガイドブック!

あらすじ・内容

飯田市の大火のあと、桜の根に女の黒髪が…

軽井沢のテニスコートに出没する影だけの女

長野市の映画館。白い手だけが肘掛の上に!

諏訪湖の花火大会で亡き友に会った

小諸大橋から黒い影が飛び降りる!

天狗岳の遭難者が夢に出てくる


松本在住の著者が長野県で起きた怖い話を蒐集、徹底取材して綴った郷土愛と恐怖溢れる一冊。

・具合の悪い息子を連れて夜間に訪れたとある病院。そのまま入院することになったのだが…「郊外の病院」(松本市

・ビジネスホテルの窓ガラス清掃作業中、カーテンの隙間から目撃した恐怖…「ブランコ作業」(上田市

・雲ノ平の山小屋周辺で起こる怪異の数々…「見つかった白骨」(飛騨山脈

・須坂村の塚から鬼の髑髏が出た!現代にまで受け継がれる恐怖譚の数々…「怪奇な民話」(信州各地

・出張先で見た夢は台風19号の大災害…「回避した者たち」(信州各地)など。

著者コメント

戦争というと戦後生まれの私たちからしてみたら大昔のことのように感じるが、終戦からまだ77年ほどしか経っておらず、戦前生まれの人口も年々減ってきているとはいえ、現在も1900万人ほどいるそうだ。日本の歴史を俯瞰で見た場合、ごく最近の出来事であることに気づき、慄然としてしまう。

長野県は広島や長崎、あるいは東京大空襲のような甚大な被害はなかったが、本州のほぼ中央に位置し、山の多い土地柄のためか(敵に攻められにくい)、軍需工場や大戦末期に突貫工事で造成された松代象山地下壕(松代大本営)などの戦争遺構が各地に点在している。それらの場所は幽霊が出るとの噂が後を絶たないが、実際に後者は工事の際に多くの死者が出ているので、単なる風説ではないのかもしれない。

戦争に至るには様々な理由があるのだろうが、基本的には国の権力者たる老人たちが勝手に取り決めて始めるものだ。しかしその犠牲になるのは、一国民に過ぎない兵士たちをはじめ、何の罪も咎もない一般市民やかよわい子どもたちなのである。

試し読み1話

棺の少年(諏訪市)


 現在九十代の女性F子さんの話である。

 昭和二十年(一九四五年)の春のことだった。

 母親に使いを頼まれて上諏訪かみすわ駅近くの乾物屋に買い物へ行った帰り道、なにげなく駅のほうを見ていると、凄まじい黒煙とけたたましい汽笛を鳴らしながら、D51型蒸気機関車に牽引けんいんされた列車が下りのプラットホームに滑り込んできて停車した。

 停まると同時にいくつか客室の窓が開いたが、押し詰めになっている乗客たちのほうに眼をやったとたん、F子さんはあまりのことに言葉を失った。

 全身を赤茶色く汚れた包帯でぐるぐる巻きにされた者、真っ黒に汚れた顔の者が複数いるが、それは風呂に入っていないとか日焼けのせいでないのは一目瞭然いちもくりょうぜんだった。

 ボロ布で作ったとおぼしき手製の眼帯をする者、肩を露出したせぎすの女が赤ん坊に乳を含ませていたが、母子ともにひどくぐったりとしていて、とても生きているようには見えなかった。

 東京のほうでよくないことが起きたであろうことをF子さんは瞬時にさとった。きっと大規模な爆撃かなにかがあって、着のみ着のまま田舎のほうに逃げてきたのだろう。

彼らにちゃんとした疎開先はあるのだろうかとF子さんは心配になった。

 そのように大変なときだというのに、皆が皆、まるでお通夜のように黙り込んでいるのがなんだか不気味に思えた。

 まるで巨大なひつぎにたくさんのひとが乗り込んでいる――そんなふうに感じたという。

 おどろいたのはそれだけではなかった。

 客席の車両のうえにひとりの、やはり真っ黒にすすけた顔の少年が立っているが、その着ているランニングシャツは血のようなもので赤黒く染まっており、左右の腕が付け根から引きちぎられたように失われていた。

 そんな瀕死の状態だというのに、すっくと姿勢よく立ちながら遠くのほう――今やってきた東京の方角を見つめている。

 なぜあんなところに立っているのか。もしかしたら無賃乗車なのだろうか。

 いやしかし、東京からここまでは八時間ほど掛かるのだし、あの容態で走る列車のうえを立ったまま移動することなどできるはずがない。

 不可思議な気持ちにとらわれているうちに再び列車は動き始めたが、少年は微動だにせず、同じ方向を見つめながら車両のうえにたたずんでいた。

「それから何日か経って、あれは東京大空襲で避難してきたひとたちだとわかったんだよ。列車のうえにいた男の子は、今にして思うと、被害に遭って亡くなったひとだったんじゃないかなと感じられてね。だってそうだとしか思えないもの。たましいだけはこっちのほうに逃げてきたのかもしれないね」

 遠い昔を懐かしむようにF子さんはそう語る。

―了―

朗読動画

3/26 12時公開予定

著者プロフィール

丸山政也 (まるやま・まさや)

2011年「もうひとりのダイアナ」で第3回『幽』怪談実話コンテスト大賞受賞。「奇譚百物語」シリーズ、『信州怪談』『怪談実話 死神は招くよ』『恐怖実話 奇想怪談』など。共著に『エモ怖』「てのひら怪談」「みちのく怪談」「瞬殺怪談」「怪談四十九夜」各シリーズ、『怪談実話コンテスト傑作選3 跫音』『怪談五色 破戒』『世にも怖い実話怪談』など。

シリーズ好評既刊

信州怪談

『信州怪談』丸山政也[著]
長野県の怖い話第1弾。〈奇譚百物語〉シリーズの丸山政也が地元長野県の怖い話を纏めた実話怪談集!
・松本市のとある住宅におぞましい異形が巣食う…「借家」
・木曽路にて、不気味な猿に導かれた先で驚愕の光景が…「猿の怪話」
・断崖で視たこの世の者とは思えぬ存在…「半過岩鼻」
・天竜川の舟下りで現れた恐ろしい怪異…「南原橋」
・日本有数のパワースポットで撮れた不可思議な心霊写真…「分杭峠」
・岡谷市の神社の怪異、その裏に凄惨な事件が…「池に浮かぶもの」
――ほか、心霊譚が絶えない長野市のホテル、善光寺に巣食う妖しい怪異の数々、死者に呼ばれる軽井沢大橋、車中に何かが乗り込む碓氷峠、小岩嶽城址の怨霊武士、菅平高原の首なしラガーマン等、身も凍る恐怖体験談に加え怖い民話も数多く収録!

▼ほか、丸山政也作品 好評近刊

奇譚百物語 鳥葬
、奇譚百物語 獄門
奇譚百物語 死海
エモ怖