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占い師が見聞きした戦慄の異談集『占い屋怪談 化け物憑き』(幽木武彦/著)著者コメント+収録作「病院の廊下」1篇掲載
信じがたきモノを見た人々から聞き集めた戦慄の怪事記!
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あらすじ・内容
これはただの夢なのか?それとも……
産気づく女の腹から出た足が畳の上をくねる。
蛸だ。蛸の足だ。
「ほれ、おまえの父親が生まれる」――「漁師町の黒い家」より
算命学はじめ様々な占術を操る占い師・幽木武彦が占断を通して遭遇した怪事件、体験者から聞き及んだ不気味な話の数々を収めた異談集。
・父親の臨終間際に息子が見た奇妙な夢。見知らぬ幼女に導かれて行った古民家で産気づいた女が産み落としたものは…「漁師町の黒い家」
・話を聞いた人のところへ必ず出るという伝染性の幽霊譚。著者の脳内にも入り込んだ白いワンピースの女とは…「飛ぶ怪談」
・こっくりさんの途中で指を離してしまった少女に伝えられたメッセージとその後、学校のトイレで起きた怪…「こっくりさん」
・コロナ禍の最中、亡くなった母。袋に包まれた遺体は娘の呼び掛けに応えて目を開けて…「Mother」
・沖縄本島最南端の岬に深夜ドライブに行った4人組。突如ひとりの視界に現れた黒い丸は徐々に数を増やしていき…「喜屋武岬」
・ご近所トラブルから三峯神社に頼ることにした一家。翌日のご祈祷を控えて宿坊に泊まっていると狼の足音が…「御眷属拝借」
・母娘の散歩コースでいつも出会う老犬をつれた老人。だが、老人はずいぶん前に亡くなっていることが判明して…「犬と老人」
・千歳川沿いの借家に住んでから襲われる異様な怪現象と体の不調。引っ越しても憑いてくる化け物とアイヌに纏わる土地の因果とは…「悪霊」三部作
他、この世の理を超えた全29話収録!
著者コメント
私の怪談はいつだって、占いを通じて出逢った全国津々浦々(と言うか、時には海外まで)の「ふつうのふりをして生きている、とんでもない怪談師さん」たちから聞いたものがほとんど。
今回も、そうした方々が「実は……」と語ってくれたとびきりの化け物話が集まった。
世の中は怪異に、そして、不思議に満ちている。
私たちが棲む世界のそこここに、黒い穴がぽっかりと大きな口を空けていることを、しみじみと思い知らされる。
次の話(「病院の廊下」)を聞かせてくれたのは、現在は海外で活躍なさっているMさんという女性。
怪談中では、優理子さん。
このかたも占いのお客さまだが、私としては珍しく「コ○○ラ」で知りあった(プラットフォームへの遠慮もあり、あまり「コ○○ラ」のお客さまとはこういう関係にならないことが多い)。
だがこの頃「コ○○ラ」にアクセスしていないらしく、いろいろと連絡をしているのだが返事がない。
おーい、Mさん。お元気ですかあ?
うかがった怪談、いよいよこんなことになってますよー笑。
試し読み1話
病院の廊下
「あれは、私が小学一年生のときでした。父方の祖父が、ある病院に入院していました」
そう回顧するのは、優理子さん。四十代の女性である。
夏の終わりのことだった。
祖父が危篤になったという連絡を受け、優理子さんは母親の佐知さんと病院に向かった。父親は一足先に行っていた。
祖父は膀胱癌を患い、五年もの長きにわたって闘病を続けていた。
病気のせいで胃まで悪くなった。
胃穿孔だった。
それが原因で倒れ、緊急入院をして手術をしたものの、優理子さんは再び、祖父の元気な顔を見ることはできなかった。
「病院に着くと、母と二人で病棟に入りました。どんよりとした重苦しい天気。ムシムシした午後のことでした」
病院は四階建てだった。
一階の受付は午前の診療を終えて暗くなっている。手続きをすませると、優理子さんは佐知さんと手を繋いで二階の病室をめざした。
エレベーターに乗り、一階から移動する。
一般病棟の二階もまた、電気が消されていて暗かった。粘つくような湿気が、べっとりと身体にまつわりついてきたことを、今でも優理子さんは覚えている。
暗い廊下を二人で急いだ。
祖父のもとにはすでに父と、その兄弟達がいるはずだ。
優理子さんは何度も足元をもつれさせた。どんなに急ごうとしても、大人の速さにはかなわない。
訴えるように佐知さんを見あげた。だが佐知さんは心ここにあらずという硬い顔つきで、優理子さんの小さな手を引っぱり続ける。
ところが――。
「そんな母が、突然ピタッと止まったんです」
まるで、時間が止まったかのようだった。
あんなに急いでいたはずなのに、母親はいきなり彫像のように固まる。優理子さんの手を握る指に、強い力が加わった。
どうしたのだろうと不安になりながら、母親を見あげる。だが佐知さんは優理子さんの手を握りしめ、前を向いて固まったままだ。
「私、耐えられなくなって、母の手を引っぱりました。すると母は」
――ううっ。
小さく唸ったかと思うと、ようやく歩き出した。
見たこともない顔つきだ。唇を噛みしめて前を睨みすえ、先ほどまで以上に足早に、優理子さんを引っぱっていく。
病室にたどりついた。祖父は、すでに亡くなっていた。
嗚咽する父の姿が印象的だった。
ありし日の祖父は、短く刈り込んだ白髪頭にメガネがトレードマーク。上背があり、いつもいかめしく口を結ぶ厳格な人だった。
家父長制の意識が強く、男子偏重な性格だったため、祖父に可愛がられた記憶は、実は優理子さんにはまったくない。
父と祖父の関係も、端から見ていてもさほど良好なものには思えなかった。そんな父がむせび泣く姿を見て、あぁ、一応親子らしい感情はあったのかと、不思議なほど冷静な気持ちで、優理子さんは父を見あげていた。
「小学一年生のわりには大人びていたんだと思います。おかしいですよね、すごく醒めた目で見ていて」
優理子さんはそう言って笑った。
父の涙にも驚いたが、それより先ほどの母はいったい何だったのだろうという疑問も、優理子さんにはあった。
だが、その後に続いた通夜や葬儀の忙しさのせいで、確かめる機会を失った。結局優理子さんはあの時のことを佐知さんに問いただすこともなく、時は流れた。
「この話が、母との間で再び話題になったのは、私が大人になってからでした」
優理子さんは久しぶりに母親と、祖父が亡くなった頃の思い出話をした。
入院していた病院の記憶などを二人で辿っていたところ、突然彼女は、例のことを思いだした。
そう言えばと、佐知さんに話を振る。佐知さんは驚いたように優理子さんを見たという。よくそんなことを覚えているねという感じだった。
優理子さんは母親から、あの夏の午後のことをようやく聞いた。
どんよりと暗い病院の廊下。
佐知さんは優理子さんの手を握り、義父の病室に急いだ。
臨終の瞬間に立ち会えるかどうか、微妙なところだった。自然に急ぎ足になる。小さな娘を急き立てる格好になった。それでも佐知さんは、廊下を急いだ。
誰かがこちらに歩いてくる。
入院患者かと思った。佐知さんは軽く会釈をして、すれ違おうとした。
時間が止まった。足も止まる。
義父だった。
義父は佐知さんの横を通りすぎた。佐知さんは動けなくなった。
優理子さんは言う。
「振り向けば確かめられると思ったそうです。だけど確かめられなかった。まさか。今のはなんだって……どうしようと思って逡巡していたら」
気配を感じた。
佐知さんは心臓が止まるかと思った。
後ろに誰かいる。
すぐ後ろ。
佐知さんと優理子さんの真後ろに、それはいた。
こちらを向いている。
「振り向いちゃだめだと思ったそうです。後ろに漂う気配を髪の毛のあたりに感じながら、その感覚を断ち切るようにして歩いたと、母は言いました」
あの時、自分の手を強く引いて歩いた母の行動にはそんな理由があったのか。
そう思うと、優理子さんは今さらながらに、背すじをぞくりとさせたという。
――続きは書籍にて
著者紹介
幽木武彦 (ゆうき・たけひこ)
占術家、怪異蒐集家。算命学や紫微斗数、九星気学などを使って朝から夜中まで占い漬けになりつつ、怖い話と縁が深い語り部たちと出逢っては、奇妙な怪談に耳を傾ける。2020年に第1弾『算命学怪談 占い師の怖い話』を発表後、「占い師の怖い話」シリーズ三部作を上梓。その他著書に『埼玉怪談』。2024年1月、通信制私塾「幽木算命塾」開講。後進の指導を開始する。中の人、結城武彦が運営しているのは「結城武彦/幽木武彦公式サイト(https://www.takehiko-yuuki.com/)」。「幽木算命塾」についての詳細もそちらまで。
好評既刊
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