2021年12月9日
【今日は何の日?】12月9日:地球感謝の日
あらゆる命の源である地球に感謝し、その思いを多くの人に伝えていこうという日。1年最後の月の、球=9にちなんで制定。
さて、今日の一話は?
「足跡」
ルミちゃんは宮崎の出身だ。
宮崎っつったら、九州でしょう。南国ってやつ。きっと暑くて暑くて雪なんか見たことないでしょう、と訊くと、ルミちゃんは口を尖らせた。
「そんなことないですよう。高千穂だって冬には雪が積もるんですよ。近くにはスキー場だってあるんですから!」
北陸や東北のそれには比べるまでもないのだろうが、山沿いの彼女の実家の辺りはけっこう積もるということらしい。
「いつだったかな。あたしが子供の頃、大晦日の晩からお正月の朝まで、ちょっと吹雪くくらい降ったことがあったんです。元旦にはもう止んじゃって晴れてましたけど」
幼いルミちゃんは、家の外に飛びだしていった。
「ほらあ、誰も踏んでない新雪に足跡付けるのって楽しいじゃないですか」
足跡一番乗りを目指して駆けていったが、すでに他の誰かが歩いた跡があった。
どんな? と訊いた。
「一本歯の下駄ってわかります? ほら、歯が一本しかない下駄ってあるでしょう? 実家の周り休耕田があるんですけど、そこに積もった雪の上に一本歯の下駄で歩いた足跡が付いてたんですぅ。わー、先を越されたって思ったんだけど、なんか変で」
なにが? と訊いた。
「うーん、一歩一歩の間隔が四~五メートルくらいあるんですぅ。それがずっと山の方まで続いてるの。その頃は、凄く足の長い大人の人だと思ってたんですけどぉ、いくら大人でも歩幅五メートルってことはないですよねえ、やっぱり」
◆
――「足跡」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』