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体験者の生々しい恐怖を再現する川奈怪談、増ページ最新刊『実話奇譚 狂骨』(川奈まり子/著)収録話「牛蒡の呪い」+コメント
絡み合う怪の
歴史と因果
![](https://assets.st-note.com/img/1694678012976-seMoIFpWCy.jpg?width=1200)
あらすじ・内容
「遺体を焼かずにその辺りの地面に埋めて…」
住宅地で次々に起こる凶事の因果、実在する忌み地の恐怖!! (「狂骨」より)
体験者の生々しい恐怖を再現する川奈怪談、最新刊!
怪談師としても活躍する川奈まり子の最新作は、呪いと因果に絡めとられた恐怖が満ちる奇譚の数々!
・店の常連と出来心でラブホテルへ行った男性を襲う女の情念が起こす怪異「恋慕の淵」
・幼い頃に亡くなった友だちが箪笥に乗って現れたら…男の奇妙な告白「箪笥の友だち」
・幽霊画に魅入られた者の悲劇と恐怖の結末「幽霊画の祟り」
・怪死事件が相次ぐ神奈川県某所の住宅地――そこは地主一族が墓地を宅地造成した場所だった。改葬されずに埋もれたままの人骨の上に何も知らずに暮らす人々、そして秘密を知る少女を襲う恐怖を描く表題作「狂骨」
――など怒涛の30話を収録。
著者コメント
大幅にボリュームアップしてお届けする実話奇譚シリーズ第7弾。
増ページもさることながら、いつも以上に取材に時間をかけた"大玉"が多いのが特徴で、いくつかの作品ではルポ怪談の醍醐味を存分に味わっていただけるのではないかしら、と。
一方で民俗的な奇譚やシンプルな現代怪談もバランスよく所収できたような気がします。
実話ならではの怖さをどうぞお愉しみください。
試し読み1話
牛蒡の呪い
一一八〇年に挙兵した源頼朝は、たった四ヶ月で関東平野に勢力を伸ばした。そして五年後、壇ノ浦の戦いで平家は滅亡する――これがいわゆる源平合戦こと《治承・寿永の乱》であるが、茨城県結城市の某家のご先祖は、平氏側の武士だったという。
近世以降、ここの本家は田畑を耕してきた。現代においても農家として、さまざまな作物を育てている。
しかしながらゴボウだけは禁物で、この家の者がゴボウを育てれば必ずや祟られると信じられてきた。
馬鹿々々しいようだが、このジンクスには根拠があった。
戦に敗れたご先祖が、ゴボウを掘り出した後の穴に足を取られて逃げそこね、討ち取られてしまったというのである。
嗚呼、こんな穴さえなかったら。ゴボウが恨めしい。ゴボウを育てた奴は祟られろ!
――というわけで、辛くも落ちのびた子孫たちは、決してゴボウを作らなかった。
これは家訓として受け継がれてきたのだが、一〇年あまり前に本家の跡取りが言った。
「もう時効なんじゃない?」
年寄りたちは「昔、禁忌を冒したときには落ち武者の霊が出たそうだ」と説得を試みた。
跡取りは一笑に付し、先祖伝来の畑にゴボウを植えた。
やがてゴボウは見事に育った。
さて、この家の長女、美苗さんはゴボウが好物だった。実家にいる頃は食べさせてもらえなかったのだが、結婚してから食べてみたら気に入ったのだ。
夫を含め婚家の人たちもゴボウが大好きだったので、兄のゴボウ栽培が順調なことを知ると、彼女は実家におすそわけをせがんだ。
兄は上機嫌で「さっき収穫したところだ。好きなだけ持っていきな」と彼女に応えた。
そこで明くる朝、さっそくゴボウを貰いに行った。
幸いにして婚家から実家までは非常に近かった。歩いて行けるほどだが、ゴボウを持ち帰ることを考えて車を運転していったところ、実家の畑のそばを通りかかると無数の穴が地面にあいているのが目に入った。ゴボウを掘った跡に違いなかった。
ところが実家に着くと兄は酔いつぶれて寝ており、両親と義姉の態度がおかしかった。
みんな彼女と目を合わせないし、全員やけに顔つきが暗い。
「どうしたの? 私ゴボウを貰いに来たのよ」と彼女は母におずおずと話しかけた。
すると「一本も無いよ」という答えが返ってきた。
「ウソばっかり。畑に掘った跡があったよ」
「……一本残らず捨てたから。わざわざ来てもらったのに悪かったね」
「捨てた? ゴボウを? どうして?」
「……言いたくない」
父と義姉も、なぜゴボウを捨ててしまったのか答えてくれなかった。
美苗さんはがっかりしてしまったが、せっかく来たのだから親孝行をしようと思い、正午頃まで両親の畑仕事を手伝った。
やがて作業が一段落つき、義姉がこしらえた昼食をご馳走になると、ほどよい疲労と満腹感のせいで眠たくなってしまった。
日が翳る前に帰るつもりだったが、居眠り運転をしてもいけない。少し昼寝をさせてもらうことにして、結婚前まで使っていた二階の部屋に蒲団を敷いて横たわった。
気持ちよく眠れそうな気がしたのだが……目を閉じた瞬間に金縛りにあった。
指先すらピクリとも動かせず、瞼も開かない。声も出せずにいるところへ、ガシャッガシャッと音を立てつつ何かが階段を上がってきた。
そして勢いよく襖を開けると、彼女が寝ている蒲団の周りを廻りはじめた。
一周、二周、三周……六周ぐらい廻って歩いて立ち止まった。
それまで体を震わすことさえできずに心の中で悲鳴をあげていたので、ようやく終わると思ってホッをしたのも束の間、いきなり胸を踏みつけられた。
肺が圧迫されて呼吸が出来ず、目玉が飛び出しそうな気がした。
――このままだと死んじゃう。
渾身の力で瞼を開けると、兜を被った鎧武者と目が合った。
彼女を踏んでいる泥だらけの足と憤怒の形相。手には刀が。
もう駄目だと思った刹那に鎧武者は消え、金縛りが解けた。
開けられたはずの襖も閉まっている。ついでに眠気も去っていた。
ゴボウはさておき、美苗さんの生家は本当に平氏の末裔だった可能性が高い。
公達という言葉がある。本来は皇族や貴族など身分の高い人々の呼称だが、平安時代末期に平家の子弟や子女を公達と呼んだ時期があるという。
そして美苗さんが生まれ育った茨城県結城市には、平家に由来すると思われる公達という町名が実際に存在するそうだ。
―了―
著者紹介
川奈まり子 (かわな・まりこ)
八王子出身。怪異の体験者と土地を取材、これまでに5000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としてイベントや動画などでも活躍中。
単著は「一〇八怪談」「実話奇譚」「八王子怪談」各シリーズのほか、『実話怪談 穢死』『家怪』『赤い地獄』『実話怪談出没地帯』『迷家奇譚』『少年奇譚』『少女奇譚』『眠れなくなる怪談沼 実話四谷怪談』など。
共著に「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」「現代怪談 地獄めぐり」各シリーズ、『人形の怖い話』『実話怪談 恐の家族』『実話怪談 犬鳴村』『嫐 怪談実話二人衆』『女之怪談実話系ホラーアンソロジー』など。
日本推理作家協会会員。
川奈まり子作品・好評既刊
『実話怪談 恐の家族』豪華執筆陣揃い踏みの初プロデュース作品
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