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2021年10月31日

1日1話、実話怪談お届け中!
【今日は何の日?】10月31日:日本茶の日

真っ先に思い浮かぶのはハロウィンですが、日本茶の日でもあります。建久2年10月31日(新暦:1192年12月14日)に、臨済宗の開祖・栄西が、宋から帰国し、茶の種子と製法を持ち帰ったことから、これを日本茶の始まりとして記念日に制定しております。

さて、今日の一話は?

「まっすぐ来る」


「そういえばさ――」
 お茶を運んできた征夫のお母さんが、思い出したように言った。
「家族で道後温泉に行ったとき、あのプールがあるホテルね。あなた夜中に窓を開けて色々見ていたじゃない。あれも同じ? 何か見えてたの? あたし、あなたが飛び降りるんじゃないかって、心配して見てたのよ」
 征夫は〈視える〉体質だ。先程まで彼に心霊スポットに一緒に付いてきてくれとねだっていたのだ。しかし、臆病なのか慎重なのか、単に嫌いなのか、ついに征夫は首を縦に振らなかった。そこに征夫のお母さんが来て、先程の発言である。
「四階だったか五階だったかの部屋でしょう? 布団に入っていたら、あなたが起き出して、窓をガラッと開けて、身を乗り出して下を見てるじゃない。その後、すぐ掛け軸のほうを見て、窓閉めて寝ちゃったでしょ。覚えてる?」
「あー、そんなこともあったね」
 征夫が何か思い出したような顔をした。
「あれはさ、夜寝てたら変な気配で目が覚めたんだよ。向こうのほうから、旅館の部屋のほうにまっすぐ何か来る気配があってさ、何だろうって思って見たら手足が異常に長い女だったんだよね。それが蜘蛛みたいに手足を折り畳んで、四つん這いのままこっちに向かってきてたんだよ。そのまま窓から部屋に入ってきて、掛け軸のところで消えたんだよ。もう何もなさそうだから寝ただけだよ」
 突拍子もない話だった。
「それで朝起きて掛け軸引っ繰り返して見てみたらさ、びっしりお札貼ってあってさ、あぁ、昨日のはこれかーって」
 征夫ですら、そんな女を見たのはこの旅館だけだそうだ。

――「まっすぐ来る」神沼三平太『恐怖箱 百眼』より

☜2021年10月30日 ◆ 2021年11月1日☞