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広島在住の著者が自ら体験&見聞きした地元の恐怖実話!『広島怪談』著者コメント・試し読み

広島で実際に起きた事件に纏わる怪奇譚から、本当に危険な心霊スポット、著者自身の恐怖まで、ご当地の恐怖実話を凝縮!

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内容・あらすじ

広島市出身在住、地元で書店員として働く著者が自ら体験&見聞きした広島県の怖い話。

配管工事を手掛ける著者の兄が見た有名デパートの地下に隠された禁域(広島市中区)
新天地公園前で四時四四分にタクシーに乗ると殺される都市伝説の裏(広島市中区)
丑の刻参りスポット八反坊から聞こえる異音と藁人形(庄原市)
薬師ヶ丘第六公園に立つ謎の埴輪像から聞こえる声…(広島市佐伯区)
鏡山公園の桜の木にぶら下がる首吊り自殺の女性霊(東広島市)
臥龍山ハイキング中に聞こえた女の呻き声(山県郡北広島町)
殺人事件の容疑者の同僚が見続けた奇妙な視点の怪夢(廿日市市)
野貝原山のホテル廃墟。大浴場の蛸壺風呂に置かれた盛り塩の意味(廿日市市)

ほか、心霊スポットからヒトコワ、都市伝説検証まで広島県に纏わる恐怖実話13!

著者コメント

愛すべき地元、広島の心霊スポットは全国と比べても呪いの力が強く、恐怖度が高いと言われています。
私が過去に訪れた心霊スポット • 恐怖体験の中でも特に厳選、更に今作は都市伝説を含めてバリエーションの多い一冊に仕上がりました。
怪談好きは元より、怖いのは少し苦手という方にも手に取っていただければ幸いです。

試し読み1話

追ってくる

 もうひとつ、つい先日に起こった恐怖体験を記しておきたい。書籍となるまでにお祓いをしてもらうつもりだが、それまでにおかしなことが起きないか心配している。
 広島で書店に勤める私が、閉店十分前に店内巡回を行った時のことだ。バックヤード扉を開けると、スピリチュアル系の本が並んだ棚前に女性客が立っていた。
 女性は長袖のワンピースを着ており、髪は肩を少し越えるほどの長さ。俯いていて表情は分からないが、四、五十代ではないかと思う。
 後ろを通過する前に、私は努めて明るい声で「いらっしゃいませ」と挨拶をした。女性は小声で何か呟いている。
 少し変わった方なのかなと思ったが、気にすることなく巡回を進めた。その際に背後から同僚が声を掛けてきた。
「閉店近いんで、俺はレジの様子を見てきます」
 お願いしますと返事をして、通路を曲がった時――先ほどの女性がこちらへ向かってくるのが見えた。尚も俯いたまま、ぶつぶつとよく分からない言葉を発しながら。
「何か御入り用ですか?」と訊ねるが、女性は独り言を呟くばかり。ここでようやく相手が靴を履いていないことに気づく。これは普通ではないと思った私は「失礼します」と言って踵を返す。
 駆け足で雑誌コーナーまで進んでから振り返ると、遠くに女性の姿が見えた。少しずつ、こちらへ近づいているではないか。
 腕時計を確認すると、閉店まで五分を切っていた。捲ってしまおうと考え、私は再び店を回る。店の端であるコミックコーナーまで進むと若干息が切れた。ここまでくればと思いながら振り返ると……いる。女性が、こちらに向かってやってくる。
 勘弁してくれと思いながら店を一周。再び雑誌コーナーまで戻ってきたが――。
 ……駄目だ……どこまで行っても、引き離すことができない……。
 裸足というのが気にかかり、警備に連絡すべき案件か悩んでいた時、閉店を告げるアナウンスが聞こえてきた。私はバックヤードへ駆け込み、店内の電気を消す。
「どうしたんですか?」
 スタッフが心配をして声を掛けてくれたが、私は「いや、何でもないよ」と答える。
 照明が半分以上消された店内を改めて回る。よかった、女性はいなくなっていた。閉店だから諦めて帰ってくれたのだと安堵しつつ、締め作業を行った。
 一週間が経過しても、私は女性の一件が気になって仕方なかった。彼女は何を呟いていたのか、どうして裸足だったのか。あの日一緒だった同僚はどう思ったか聞いてみた。
「不気味な女性……? いえ、見ていませんけど」
 そんな馬鹿な。あの日、私の後を彼はすぐに追ってきた。彼女の横を通過していないはずがないし、気づかない訳などあるものか。
 しかし同僚は本当に見ていないと言う。さらに別のスタッフから話を聞いた。
「僕も出勤だったので覚えていますよ。トシさんがすごい速度で店を回っていたので、どうしたのかなと思っていました」
 女性がついてきていなかったか訊ねるも「いえ、トシさんだけでしたよ?」と言う。
 ……あの女性は自分しか見えていなかった?
 いや、それにしてははっきりと見えすぎていた。霊との遭遇体験はそれなりにあるが、毎回「これはヤバイ」「現世のものじゃない」という雰囲気を感じ取れていた。けれども、それはなかったのである。
 改めて現場検証を行うこととなり、同僚たちも付き合ってくれた。最初どこに立っていて、どのルートを進んだのか記憶を追っていく。
 スピリチュアル系の棚前にいた、といって現場へ向かう。ここで間違いないと案内した瞬間、同僚たちが引きつった表情を見せる。
「トシさん……この棚……」
 顔を上げると、棚には『前世・あの世』と書かれたプレートが置かれていた。
「ここの前に、立っていたんですか……?」
 私は何も言えなくなる。さらに他のスタッフからおかしな点を指摘された。
 まず裸足であるにも拘らず、足音が聞こえなかったのは何故か。
 何より、あの日私の巡回は駆けているといっても差し支えない速さだったらしい。それについてきたのも普通じゃない、と。
「トシさんにだけ姿が見えて、声を掛けられたからついてきたんじゃないですか……?」
 とはいえ、目撃してから一週間経つが、自分の身に何かが起こった感じはしない。
「気づいてない可能性もありますよ」
 そんな脅され方をされつつ、今日の仕事を終えて帰路に就いていた時である。
 原付きで家に向かっている最中、パトカーに声を掛けられた。
「原付き運転手さん、停止してください』
 何事かと思いつつ、内心ドキドキしてしまう。一時停止違反をした訳でもなく、保険も切れていない。速度も法定内だったし、整備不良だってしていない。完全に思い当たる節はなかった。
 とはいえ無視する訳にはいかないので、言われるがまま路肩へ停止。しばらくするとパトカーから警察官が二人降り、こちらへ向かってやってくる。
「……あれっ?」
 ひとりが素っ頓狂な声を出す。黙って成り行きを見ていると、もう一人の警官も声を掛けてきた。
「お一人、ですか?」
 その言葉に、私は背筋が震える。原付きなのだから一人に決まっている。それとも……他に〈誰か〉が見えたとでも……?
 恐る恐る訊ねるが、警官たちは「いえ、申し訳ない」と謝るだけで答えない。念のために免許証確認だけいいですかと言うので、それに応じる。
「お仕事の帰りですか? こんな時間まで大変ですね」
 世間話を切り出してきたので、私もここぞとばかりに訊ねた。一週間くらい前に、この辺で女性が亡くなった話を聞いていませんかと。
「あ、ニュースや新聞で御覧になりました? 結構長い時間、渋滞になっていましたよね」
 微妙に会話が噛み合っていない気がしたが、次の言葉ではっきりする。
「交通事故ですよ、被害者は四十代の女性だったかな」
 その人は髪が肩を越えるくらいの長さで、ワンピースを着ていませんでしたかと聞く。
「もしかして、お知り合いの方でした?」
 いえ、そういう訳では……それだけ言うのが私には精一杯だった。
「すみません長々と。くれぐれも事故には気を付けてくださいね」
 そう言うとパトカーは走り去っていく。取り残された私は、誰かに見られている気がして振り返ったが、そこには何もいなかった。

―了―

著者紹介

岡利昌 Toshimasa Oka

1980年広島生まれ。岡山の大学に進学し、同地で学生時代を過ごす。
現在は書店員として働く傍ら、実話怪談、ホラー小説、 コミック原案等を手掛ける。
主な著書に『広島岡山の怖い話』、104名義の既著に『霊感書店員の恐怖実話 怨結び』がある。

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