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2021年11月8日

1日1話、実話怪談お届け中!

【今日は何の日?】11月8日:いい大家の日

11.08=【い(1)い(1)おー(0)や(8)】の語呂合わせにちなんで、不動産賃貸業や大家さんとの情報交換や交流会を行うコミュニティ「東海大家の会」を運営する有限会社貴藤が11月8日に記念日を制定しております。

さて、今日の一話は?

「赤丸」


 その物件は、中村さんが知る限り、もう十年以上入居した人はいない。途中入社する前からその物件は空き家だったようだ。中村さんも何度か内見の案内をしたが、一度も契約に至ったことはない。
 聞けば他の不動産屋も同じだという。
 駅からは十五分。少し離れているが、近所にスーパーマーケットもあり、生活するには悪くない環境だ。
 ある日、その部屋を含めた数部屋の内見を依頼された中村さんは、依頼人を車に乗せて案内を開始した。最初に訪れたのがその部屋だった。
 軽鉄骨の二階建てのアパートで、部屋数は四つ。今は一階と二階のそれぞれ一室に年配の人が入っている。中村さんは階段を上がって鍵を開けた。まめに掃除をしているので黴臭さはない。
 暫く依頼人と一緒に部屋を巡り、窓から見える光景から現地の状況説明をした。
 説明の間、依頼人はしきりとダイニングの壁のほうを気にしていた。
 ああ、またか。今回もこの部屋は駄目だろうな。
「そろそろ、次の物件に行きましょうか」
 依頼人がそう口を開いた。やはり余り乗り気ではないようだった。中村さんは持参のスリッパを片付け、次の物件に移動するために階段を下りた。

「あの、最初に行った物件なんですけど」
 事務所に戻ってから、依頼人が言った。
「何でダイニングにカレンダーが貼ってあったんですか?」
 大きなカレンダーの下側。月末の日付にぐるぐると赤ペンで印が付けてあったという。
「あ、大家さんのほうで片付け忘れているのかもしれませんね」
 中村さんはとっさに嘘を言った。
 実際には壁には真っ白な壁紙が貼ってあるだけで、そんなカレンダーは存在しない。
 だが、何人もの客が同じカレンダーを指摘する。いつものことだ。
 その部屋で人が亡くなった訳でも、何かおかしな事が起きたという噂も聞かない。
 何故カレンダーがそこにあるのか理由は分からない。

――「赤丸」神沼三平太『恐怖箱 百眼』より

☜2021年11月7日 ◆ 2021年11月9日☞